* PM0:00
〈今日の夕方、待ってるから〉
午前中、あいつからのメッセージがスマホに届いていることには気付いたが、既読だけ付けて返事をすることはしなかった。小さく息をつき、チャイムが鳴る部屋の中で首を回す。
集中しなければと思えば思うほど、その意識が集中力を奪う。色々考え、ぼんやりしていたら昼になってしまった。
こういう日はやっぱり駄目だな、と思いつつ、今朝来る前に買ってきたコンビニの袋を片手に階段を上る。
今時珍しく、ここは屋上が開放されている。
スコンと抜けるような青空の下、何人かの先客がいたので、彼らの邪魔にならないように隅を選んで座り込んだ。袋から菓子パンを取り出し、もそもそと口に運びながらスマホに目を落とす。
あいつから、その後の連絡は入っていなかった。仮に他のメッセージが入っていたところで返事をするつもりはないから、別に良いのだけれど。
メッセージアプリを閉じて他のアプリを開こうとしていたら、誰かの影が突然視界に落ちてきた。
「——やっぱり流奈先輩だ」
「……
目の前に立っていたのは後輩だ。
隣お邪魔しまーす、と彼女はわたしのすぐ横に腰を下ろすと、興味深そうにスマホを覗き込んでくる。やましいことは何もないものの、反射的に左手で画面を遮ってしまう。
「何ですか? もしかして、彼氏と連絡でもしてました?」
「違うから」
その反応怪しいなーと胡散臭げに見てくる奈々美を、軽く手で払う。二個下の後輩が可愛くない訳ではないが、少しばかり距離感が近すぎやしないかとは常々思う。
「ところで、流奈先輩がコンビニのパンなんて珍しいですね。普段お弁当じゃないですか」
「今日、ちょっと寝坊して」
寝起きで布団を剥ぎ取られ、準備にばたついていたら弁当を受け取り損ねた。先輩の尊厳的にそれはどうなのだろうと言い淀んでいると、奈々美はさも核心を掴んだかのような表情で口に手を当てる。
「もしかして、夜遅くまで彼氏と——」
「だから違うから」
この子の脳みそには恋愛のこと以外入っていないのだろうか。呆れつつ横目で見ていると、彼女はふと何かを思いついたように大きな瞳を輝かせる。
「彼氏いないなら合コン行きません? 合コン。先輩綺麗だし、モテると思うんですけれど」
何を小癪な、と内心で舌を出す。
贔屓目に見ずとも、わたしより奈々美の方がよっぽど可愛い。そしてたちの悪いことに、彼女自身がそれをしっかりと理解している。そういう場に行ったところで、奈々美の引き立て役に回されるであろうことは目に見えていた。
それに、わたしは——。
「忙しいし、そんなのに行く時間は取れないよ。そもそも、奈々美だって最近バタバタしてるんじゃないの」
「それとこれとは別問題です。それにしても流奈先輩、合コンも断るってことは、やっぱり彼氏——」
「もう、しつこいっての!」
何故か楽しそうな奈々美を引き剥がしつつ、阿呆みたいに青い空を見上げて、一人ため息をついた。
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