1 AM7:00

「——ああ」


 耳の横で喧しく騒ぎ始めた目覚まし時計に平手を張り、わたしは薄く目を開く。


 嫌な夢を見た。


 夢、というか、正確には思い出。


 あれは、もう十年近く前の出来事だ。普段なら思い出す機会もないような些細な記憶なのだから、今さら無意識の底から引き揚がってきてくれなくても良いのに。


 思いつつ、布団から左手を出して掲げる。

 見上げる手の甲に残っているのは、曇り空の下に落ちる影のような、未だ消えない火傷の痕。過去が事実であったことを示す、唯一の印だ。


 ため息をついて寝返りを打つと、見慣れた空間が横向きに映る。


 お世辞にも片付いているとは言えず、かといって汚いと切り捨ててしまうにも微妙な、中途半端なわたしの部屋。通学用に使っている鞄が、先週机に放り出した時から変わらずそこに転がっている。


 ぼんやりしながら視線をずらすと、壁にかけられたカレンダーが嫌でも目に入った。


 赤く彩られた数字が四つ。


 その華やかさとは対照的に、今日から並ぶ五つの数字は、つまらなくて寒々しい黒色で塗りつぶされていた。


 何がゴールデンなウィークだ。仰々しい呼称を名乗るくらいなら、丸々一ヶ月カレンダーを赤く染めてみろ。心の中で毒づきつつ、わたしは枕に顔を埋める。


 ……学校、行きたくないな。


 というか、あいつに会いたくない。


 いっそ、今日は体調不良をかたって一日布団から出ずに過ごしてやろうか。その方が精神衛生的にも良いに決まっている。

 心を固めて目を閉じようとしたところ、しかし身体の上に乗っていた掛け布団は突然引き剥がされた。


「ちょっと流奈るな、いつまで寝てんの。早く準備しないと遅刻するよ!」


 見上げると、母が睨んでいた。その鋭い眼光の中に、嘘が入り込む余地はない。


 僅かばかりの抵抗の意を込めて、わたしは小さな舌打ちで返事をした。

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