09 証
それから月日は飛ぶように流れていった。
アキの裁判も飛ぶようなスピードで進行した。数々の証人が呼ばれ、私も呼ばれ、信じられないことだが、わずか二週間でアキの有罪がほぼ決定した。『当局側は犯人を欲しがっている』。留置所でガラス越しに彼女と交わした会話が私の耳から離れなくなった。そして公判を午後に控えたその日の午前――どうしても裁判所に足を向けられなかった私は、あのときJJから与ったペローを連れて散策に出かけた。裁判所に行くには証拠が必要だった。それがなければ私はアキの前に姿を見せるわけにはいかない。私はもう二度とアキに逢うことはできないのか? それにはどうしても証拠が必要で……。どうどう巡りする思考を頭の中に渦巻かせながら道を歩いていた私は、ふいに両腕に抱いたペローがゴロゴロとのどを鳴らしている音を聞いた。反射的に空を見上げる。緑だった。ゴロゴロゴロ。ペローはのどを鳴らす。そして赤、黄、紫、オレンジ。ペローはのどを鳴らさない。そして黄緑。ペローが再びゴロゴロとのどを鳴らす。私ははっとした。緑と黄緑。そして赤と緑と紫。あのときシンドロームの実験室で頭に弾けた考えが、そのときふいに実を結んだ。そうか! そういうことだったんだ。
その色は白だったんだ!
あっはっはっは……
私はいやがるペローを両腕に固く抱き締めると、駈足で研究室に取って返した。
「そうだ、カブキ。きみはいってただろう。リレイヤーの生物は四つの視物質を持っていると。そいつは猫蜜柑でも? なにっ、きみが調べたのはまさに猫蜜柑の視細胞だって。そりゃあ、いい。グッドだぜ! で、きみはスペクトル色が九色だっていっただろう。そうそう、なにぃ、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、越紫(スーパー・ヴァイ)、超紫(ハイパー・ヴァイ)の九つだって。うん、それはいいんだ。で、問題はだな、それをカラーサークルに再構成できないかってことなんだよ。え、よく聞こえない。もう一回いってくれ。あん、カラーサークルには、もうしてあるって? うひゃぁー、すげえぞ! で、それはどこに? きみの研究室の引き出しの中だって。わかった。じゃ、それを借りるぜ。オーケイ? オーケイ!」
ガチャ 宙ぶらりーん
「おいおい、おまえ、返事しろ! 返答返せ、どうしたと…… ショックのあまり脳天に、ヒビでも入ってお釈迦かね?」
裁判所と研究室を結ぶ映話は、主人がいなくなった後も、しばらくの間、連結を保持し続けた。
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