第8話 羊飼いアルパダの話

「なんでキリストは復活後に天に昇った? そいつが人類を導けば、こんな迷いのある世界にはならなかった。つまり神は、人間を見捨てたんだよ」


あたしは、コーヒーを飲んだ。アストレイアとの話が続いていた。あたしは、鋭い目で相手を見据えて、重い一撃を与えようと狙っていた。


「こんな話があります」


アストレイアは、背筋を伸ばした。詩を詠む時の姿勢だと、あたしは思った。


羊飼いのアルパダ。彼は羊飼いといいながら、たった一匹の羊しか飼っていませんでした。


しかし彼は朝になると嬉しそうに自分の羊を山の上の牧草地に連れて行き、夕方に帰ってくる時には満ち足りた顔をしていたのです。


村の人たちはアルパダのことを ばか と呼んでいました。一匹の羊では生活は成り立たない。彼は村の人たちの援助で食いつないでいたのです。


ある日アルパダは、羊が草をはんでる間に、自分は昼寝をしていました。


こんな夢を見たのです。


空から光の柱が降りてくる。それは彼の体を照らす。暖かくて安らぐ。やがて柱を降りてくるように3人の天使がその翼を広げて現れました。


アルパダよ、羊を神に捧げなさい。


天使の1人が彼の真上を飛びながら言いました。


アルパダは、そこで目が覚めました。羊を見ました。彼にはできなかった。夢は夢です。


そのまま村に帰りました。


次の日も昼寝をしました。夢に光の柱が出てきます。あの天使たちも。昨日とは違う天使が言いました。


なぜ、捧げないのか? 神の命なるぞ。


目が覚める。羊を? 無理でした。


3日目の夢で、最後の天使が言いました。


お前は天国に行く機会を失った。我らは悟った。指示される道は人間には苦痛だと。神がお前らに自由を与えたのはそういうことだったのだ。


話を終えたアストレイアは、コーヒーを静かに飲んだ。絵になる女だ。ますます、腹が立ってくる。


「見捨てたのではないのです。ただ、神さまの完全なる導きは、疑り深い人間には過ぎたものだった。だから、この地上は、人間に託される形になったのです」

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