第7話 苦いのがコーヒー

アストレイア(あの女のことだぞ)はその後幾つかの詩を聴衆の前で詠んだ。全てに神という言葉が入っていた。気持ち悪りぃな。


別れの口上を述べると、客たちはまばらに去っていった。何人かが不安そうに彼女を取り巻いていた。


「大丈夫です。ありがとうございます」


つまりは、私の存在だな。まあ、いい。鼻つまみもんなのは、どこでもそうだっただろう? 論破だ。アストレイアを論破する。くーっ、顫えるぜ!


「ネコ、行きましょう」


アストレイアは荷物をトランクにまとめて、立ち上がった。


「おい、呼び捨てすんなよ」


「わたしのこともアストレイアでいいですよ。それにわたしの方がお姉さんだから」


「何才だよ」


「16」


「あ、そう」


年齢に特に興味ない。確かにあたしよりは年上だがガキじゃねえか。大人のセンコーを泣かせてきたあたしの敵じゃねえ。


「コーヒーは飲める?」


「飲んだことねぇな」


「じゃあ。挑戦してみよっか」


「いちいち腹立つな。子供扱いすんなよ」


「そっか、気をつけるね」


アストレイアはトランクを持って道を進みはじめた。ゴロゴロと車輪が鳴りやがる。うるせえ。


あたしは後ろからついていく。アストレイアに主導権を握られたようでムカつく。こんなふうに人を自然と導こうとするやつに今までにも会ったことがある。無理矢理、上に立とうとするガツガツしたのがないから、天性のものか? あたしにはそんな能力はない。だから、一匹狼なんだ。


「ここでいいですか」


安いということで流行っているチェーンのカフェだ。それくらいは聞いたことある。ここなのか? 想像と違えな。もっと高いとこ行くかと思ったんだが。もちろん、払わせるけどな。


店内にはけっこう客がいやがる。アストレイアが店員に注文している。コーヒー? 飲めんのか、あたし。


「行きましょう」


二つのコーヒーカップの載ったトレイを片手にして、アストレイアが歩き出す。


大きな窓に面したカウンター席に2人並んで座った。


「どうぞ」


コーヒーがあたしの前に置かれた。


「お砂糖いる?」


「いらねえよ、そんなもん」


あたしは、多少不安を感じたが、舐められるわけにはいけないのだ。アストレイアも砂糖を入れてねえ。こういうのは、同列に並ばないとな。


そっとカップに口をつけてみた。


「にがっ」


しかし、にがうまい。いけそうだ。

どうだ、まずは、一勝だ。

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