第6話 神なんて信じてんのかよ

「神が何してくれるってんだ?」


女はこちらを見て、困った顔をした。廻りの聴衆たちの空気が、さっと不穏なものになったのがわかる。しかし大人ばかりだ。仕事でもないのに、見ず知らずの中学1年の女子を厳しく叱れる根性のある奴なんているわけねえ。


「神さまは、お嫌いですか?」


「聖なるものなんて、ガラクタだよ!」


あたしは歯軋りしながら女を睨んだ。その、落ち着いた波のない感情は何だ。もっと恐れろ。あたしに勝利感を持たせろ。そして常にこちらの顔色を窺うマシンになれ!


「なぜガラクタだと思うのですか?」


「未曾有の苦悩、果てない哀しみ、耐えられない痛み。死。こんなものが人間をつくるものだ。もし神があたし達を創ったってんなら、ぶん殴ってやりたい。こんな存在にしたことに!」


「それでも地球上で1番美しい生き物ではないですか」


「そりゃね、あんたみたいに恵まれた人間から見たら世界はハッピーだろうね! 毎日が天国!」


「私が恵まれていると、そうお思いになるのですね」


女は、トランクの上に置いているスマホを手に取った。スリープモードをとき、画面を見たようだ。なんだ、着信音鳴ったか?


「あなた、お名前は?」


「あ? ネコ……」


本名なんか教えるわけないだろ。いや、あだ名にしろ、素直に答えた自分がカッコ悪いぜ。あー、やり直したい。


「じゃあ、わたしは、アストレイアと名乗ります」


はあ? 恥ずかし! 本気で言ってんのか?


いやいや、なに友達みたいにしてんだ! こいつをぶっ潰すんだ!


「今は午後4時です。この後、お時間はありますか?」


「喧嘩売ってるって思っていいか?」


「喧嘩しましょうね。あなたの気が済むまでお話を聞こうじゃありませんか」


わたしは怯んだ。一歩、身体を下がらせてしまった。この女は、なんというか、深い……。

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