篠原と田中



~篠原と田中~



「お二人そろって、今日はどうされたのですか?」


 久しぶりに篠原と田中がそろって「聞くだけ屋」に来ていた。


「特に用はないんだがな。近くまで来たもんだから寄ってみたよ」


「そうでしたか」


「違いますよ~、もう。篠原さんが出張とかで全然神野さんの所に行けなかったから、行こう行こうってうるさいんですよ。まったく」


 田中があきれたように言った。


「えっ、いやぁ、そうだったかな?」


 篠原は笑ってとぼけて見せていた。


「田中警部、これはいつものことですので」


 神野ゆいも笑っていた。


「もう、篠原さん、署にいる時とここにいる時と、全く別人なんですよ。まず笑わないですからね。皆にも教えてあげたいですよ。こんな篠原さん」


「おいおい、お前を信用してるんだからな。余計なことは喋るなよ」


「わかってますよ。言っても誰にも信じてもらえませんよ。きっと」


 田中はすねているようだ。


「篠原さんとは課も違うんですよ。僕は仕事してるのに、自分が暇になったからって急に来て連れさられるんです」


「いいんだよそれくらい。俺の署なんだから誰も文句は言わないぞ」


「そういうことではなくて、仕事がたまっていつも帰りが遅くなるんですよ」


「何だ、それはお前がもっと早くやるか、部下にやらせておけばすむ話じゃねぇか」


「そ、そりゃそうですけど」


 二人の会話を聞いていた神野ゆいは可笑しくて笑いが止まらなかった。


「神野さん、笑ってないで何とかして下さいよ~」


「篠原さんには勝てませんよ」


「そんなぁ」


 田中は困った顔をしていた。


「本当にお二人はいいコンビですね」


「そんなことは……」

「そんなこ……」


 二人同時に口を開いた。


「ほら!」


 神野ゆいはまた可笑しくて笑った。


 篠原と田中も笑うしかなかった。





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