晴輝
~晴輝~
「改めて、卒業おめでとうね、晴輝」
晴輝の卒業祝いに二人で食事をした後、あの隠れ家のようなバーで乾杯をしていた。
「ありがとう、ゆい。あー、やっと卒業かぁ。まだまだだな」
「何がまだまだなの?」
「ん? ちゃんとゆいを養ってあげるのが」
ゆいは晴輝の不意打ちに顔が熱くなるのがわかった。
「……待ってるから」
「何?」
「ちゃんと、ずっと待ってるから、晴輝のこと」
ゆいを見ながら晴輝は微笑んでいた。
「あは。赤くなって、可愛い」
「……もう」
ゆいはますます赤くなるのを感じた。
「あのさ、ゆい。お願いがあるんだけど……」
「どうしたの?」
晴輝が改まってお願いと言うのは珍しかった。
「明日、おふくろのお墓参り、一緒に行ってくれない?」
「えっ。いいの?」
ゆいは少し驚いていた。
今まで上条太郎からも晴輝からも、その話題が出たことはなかった。
「うん。おふくろにもゆいを紹介したいんだ。いいかな」
「もちろんだよ。お母様のこと、教えてくれる? どんな人だった?」
「うん。名前は上条夏美。夏に美しいって書くんだ。あ、写真見て」
晴輝はスマホから写真を探して見せてくれた。
晴輝の大学の入学式だろうか。
上条太郎と親子三人で写っていた。
晴輝は父親似らしかった。
母親の夏美は晴輝とは顔は似てはいないがとても美しく、写真からでも明るくて優しい雰囲気が伝わってきていた。
「すごく綺麗な人……」
「ありがとう。とにかく明るい人だったよ。親父が溺愛しててさ。自分の秘書もやらせて一日中そばに居させてたんだ」
「上条先生が……」
上条太郎にそんな一面があったとは、ゆいも初めて知ったことだった。
「それで……。事故だったんだ。目撃者の話しによると、飛び出してきた子猫を避けようとハンドルを切りすぎて。頭を強くぶつけたみたいでさ」
「そうだったんだ……」
「うん。あまりにも突然だったから親父がまいっちゃってさ。本当に落ち込んで大変だった。必死で慰めたよ。親父は立ち直るまで苦労してた」
「でも晴輝は? 晴輝は大丈夫だったの?」
「いや、大丈夫ってわけでもないけど、あまりにも親父が悲しんでたからさ。親父にはもう俺しかいないし、俺が何とかしてあげなきゃって必死で。今思えば俺は悲しむ暇もなかったかな」
急に晴輝が下を向いた。
「あれ? 何だろう。ごめん……」
晴輝の目から涙がこぼれていた。
「晴輝も辛かったんだね。泣くひまもないくらい、お父様のためによく頑張ったよ。偉いよ」
ゆいは立ち上がって、晴輝の顔を自分の胸に抱き寄せた。
「もういいんだよ。いっぱい泣いて、いっぱい悲しんでいいんだよ。もう我慢しなくていい。もう大丈夫だよ」
ゆいは晴輝の涙がとまるまで、晴輝を抱きしめていた。
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