小百合



~小百合~



「小百合さんには本当に何とお礼を言っていいのやら……。ありがとうございました」


 神野ゆいはVIPルームに来ていた小百合に頭を下げてお礼を言った。


「うふふ。今まで長官の妻だってこと、黙っててごめんなさいね。私もたまには一人のただの女として人とお付き合いしたかったの。だから神野さんも今まで通り、普通に接してくださると嬉しいわ。わがままかしら?」


 小百合が可愛らしい笑顔で話している。


「わがままだなんてそんな……」


「じゃあお願いね」


「はい」


 神野ゆいは何だか嬉しくなった。


「でも知らなかったわ。あの坂本大臣の奥様の事件をあなたが解決していただなんて」


「解決というほどのことは何も……。私はいつものように話を聞いただけです」


「あなたはいつもそう言うのね」


 小百合が優しい顔で神野ゆいを見ている。


「私はいつもそう思っております」


「自分は何もしていないと?」


「ええ。人は一度話し始めると、自分の思いを全て伝えようと皆さん必死に話してくれます。私はそれを聞いているだけです。ただ、その話しに嘘があったり、本当はこう思ってる、というような時に違和感を感じとることができるだけです」


 小百合はまた笑った。


「それがあなたの能力なのね。素晴らしいわ。やっぱりあなたのことを夫に話してよかったわ。その力はきっと人の役にたつもの」


「そうだと嬉しいのですが」


 神野ゆいは苦笑いをした。


「あなたでも政府や警察の仕事は不安?」


 小百合が聞いた。


「もちろんです。私なんかより年齢も経験も多い方々がたくさんいらっしゃるのに、何だかおこがましいです」


「確かに、あなたみたいな若い人に相談なんて、と思う人はいると思うわ。でもそんなの最初だけよ。あなたの才能を知ったら皆があなたを頼りにするのが目に見えているわ」


「そうなれるように頑張ります」


「でもほんと、その若さで大変よね。あ、ねえ、神野さんには誰かいい人はいるの?」


「え、あ、はい。お付き合いさせていただいてる方がいます」


「あらそう、よかったわ。心配だったの。やっぱり心の支えがないとね。安心したわ」


「ありがとうございます」


 神野ゆいは小百合の優しさで胸が暖かくなるのを感じていた。


「小百合さん、一つお伺いしてもよろしいですか?」


 神野ゆいが聞いた。


「ええ、もちろんよ」


「小百合さんはどうして私のためにここまでしてくださるのでしょうか」


 小百合は少し考えた。


「さあ、どうしてかしらねぇ。理由なんて考えたことがなかったわ。でも、昔私がまだ弁護士だった頃、私もある人に本当によくしてもらったの。その人はまだ若くてもがきながら必死に背伸びしようとしていた私を何度も救ってくれたわ。あなたを見ているとあの頃の自分を思い出すから、かしらね」


「その人が今のご主人なんですね」


 神野ゆいが言った。


「もう、どうしてわかっちゃうのかしら」


 小百合が恥ずかしそうに笑った。


「素敵です」


 神野ゆいも小百合を見て笑顔になっていた。





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