上条太郎と篠原



~上条太郎と篠原~



 午後、上条太郎と篠原が「聞くだけ屋」に来た。


「神野くん、君は本当にどうなってるんだ」


 篠原が興奮した様子で話す。


「お二人ともどうされたんですか」


 神野ゆいは戸惑う。


「今朝、最高裁から書類が届いたんだよ。私と上条の所にね。中を見て驚いたよ」


「私もビックリしてすぐ篠原に連絡してここに来たんだ」


 上条太郎も嬉しそうに話す。


「何があったんですか?」


 上条と篠原が書類を出して神野ゆいに見せた。


「俺の所には神野ゆいを警察のアドバイザーとして雇用する事を命ずる、というものだ」


「私の所には神野ゆいを政府のカウンセラーとして雇用する事を命ずる、というものだったよ」


「えっ」


 神野ゆいが書類にざっと目を通す。


 長い文章ではあったが、確かに要約すればそのような事だ。


 後は神野ゆいが同意してサインすれば成立するらしい。


「こんなことが……」


 神野ゆいは驚きと戸惑いを隠せなかった。


「驚くのも無理ないよ。私たちが一番ビックリしているからね」


「うん、昨日最高裁の人間が来たのはこの為だったんだな。確認に来たってわけだ」


「はあ……」


 上条と篠原はもう一つ封書を出した。


「これは神野くん宛てだ。同封されていたんだ。開けて見てくれるか」


「はい」


 神野ゆいは渡された封書を開けて中身を確認した。


 契約に関する注意事項やプライバシー保護の書類などが何枚かあった。


 最後に神野ゆいがサインをする書類もあった。


「これにサインすれば、契約成立みたいですね。最高裁判所長官宛て……と書かれています」


「ん?」


 篠原が見せてくれと言ってその書類を確認する。


「最高裁判所長官……黒崎哲也……」


 篠原はその名前をぶつぶつと繰り返している。


「篠原さん……?」


 神野ゆいは心配になってきた。


「そうか、そういうことかぁ。わかったぞ。何で最高裁が絡んできたか」


 篠原は嬉しそうな顔をする。


「神野くん、前にここですれ違った女性がいただろ。俺がどこかで見たことがあるって言ってた女性」


「あ、ええ、いました」


 小百合のことだ、と思う。


「彼女は最高裁判所長官、黒崎哲也の妻、黒崎小百合さんだよ。そうだよ、思い出した。あ~、そうかそうか」


「小百合さんが? 長官の奥様……」


 なるほど、と神野ゆいも納得した。


 あの黒塗りの高級車、立ち振舞い、権力者の知り合い……。


 これは全て小百合が手を回してくれたことだったのかと確信した。


「そういうことだったんですね」


 神野ゆいは小百合のあの可愛らしい笑顔を思い出し、微笑んだ。


「これでスッキリ契約出来るな。最高裁の命令とはいえ、何かモヤモヤしてたんだ。裏に何かあるんじゃないかってね。でもこれで安心して先に進めるよ」


 篠原が言った。


「またゆいさんに助けられましたね。私たちの力ではやはり無理かとあきらめかけていたところでしたから」


 上条も笑顔で嬉しそうだった。


「本当だよ。いやぁ神野くん、ありがとう」


「私は何もしておりません」


「はっは。神野くんはそれでいいんだよ」


 神野ゆいは意味がわからなかったが二人が喜んでいるのが嬉しかった。


「じゃあ、書類をよく読んでサインをしといてくれるかな。明日取りに来させるよ」


「はい、わかりました」


「よろしく頼むよ」


 上条もそう言って二人は立ち上がった。


「わざわざありがとうございました」


「こちらこそだよ。何かわからないことがあったら連絡してくれ」


「はい」


 二人はじゃあと言って「聞くだけ屋」を後にした。


 神野ゆいは書類を見ていた。


 (最高裁判所長官、黒崎哲也……か)


 小百合に何とお礼を言おうか、早く小百合に会いたいと神野ゆいは思っていた。





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