田中



~田中~



 朝、晴輝が神野ゆいを「聞くだけ屋」まで送って行くと、雑居ビルの前に車が停まっていた。


 乗っていたのは田中だった。


「神野さん、晴輝くん、おはようございます」


 田中が車から降りてきた。


「田中警部、おはようございます」


「おはようございます」


「すみません、朝早くに」


「どうしたんですか? とにかく中に入りましょう」


 三人は三階に上がり、ひと息ついた。


「何かあったんですか?」


 晴輝が心配そうに聞く。


「あー、いや、ちょっと気になることがあって、篠原本部長に神野さんに伝えるように頼まれたまでです」


「はあ」


「昨日篠原さんのもとへ、最高裁判所の司法事務局の方が来られまして、神野さんのことを聞かれたそうです。どういった繋がりがあるのかとか、なぜ警察に必要なのかとか」


「最高裁判所……」


「ええ。それで、篠原さんはこの前の坂本ちえさんの事件の事を話したそうです。神野さんのおかげで解決したと」


「何か都合が悪かったでしょうか」


 神野ゆいも心配そうに聞いた。


「いえ、それは大丈夫だと思うのですが、篠原さんが気になったのは、最高裁判所が、なぜ警察が神野さんを雇おうとしている事を知っていたのか、です。神野さんに心当たりがないか聞いてこいと言われました。何か思い当たりますか?」


 神野ゆいは考えてみたが、心当たりはないと伝えた。


「そうですか。いや、それなら別にいいんです。篠原さんも、ないだろうなと言ってましたので。一応ご報告までです」


「……わかりました。何かご迷惑をお掛けしてるのではないでしょうか」


「とんでもないです。私たちは皆、神野さんにお手伝いして欲しいと思っておりますので」


 神野ゆいと晴輝が心配そうに顔を見合せた。


「それと篠原さんは、もし、ここにも裁判所の方が来られたらビックリするだろうから、とも言ってました。だから早いとこ伝えておけと」


「はぁ」


「では、私も署に行って来ます。あの、そんなに気にすることはないと思いますので」


「……はい。わざわざありがとうございました」


 田中は失礼しますと言って出て行った。


「ゆい、心配ないよ。田中警部もああ言ってたしさ」


「うん」


「じゃあ俺もそろそろ行くね。何かあったら連絡して」


「うん、わかった。ありがとう。行ってらっしゃい」


 晴輝もじゃあねと言って出て行った。


 (本当に大丈夫なのかな)


 神野ゆいは少し不安になったが、篠原に任せておけば大丈夫だろう、と考え直した。





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