白倉円花
~白倉円花~
「聞くだけ屋」の近くにある高校の制服を着た
神野ゆいはいつもの説明をし、タイマーをセットした。
「私、好きな人がいるんです。本当に本気で恋してるんです。だけどそれを周りの友達とかに言っても理解してもらえなくて。理由はわかっています。私が好きなのは、歌手のLEONさんなんです。私がいくら本気だと言っても皆にバカにされます。はいはいって感じで。ただのファンでしょ、とか、そんなの好きになってもムリじゃんって。無理なのはわかっています。ただ本気ってことを理解してほしいだけなんです。中学生の頃もそうでした。アニメのキャラに恋しちゃって、クラスの子達にはオタク扱いされました。いじめまではいかないけれど、バカにされてました。今と同じです。まわりに私みたいに二次元やアイドルなんかを好きな子って絶対いると思うんです。でも私がオープンにしてこんなにバカにされてる状態だからか、誰もそういう話しはしてくれません。私だって、皆と恋の話で盛り上がったりしたいのにそれもできません。現実を見ろとかキモいとかヤバいとか言われます。何だか自分がいけないことをしているような気持ちになってしまいます。だからクラスでは今、私は一人でいることが多いです。心の拠り所はSNSで知り合った同じ思いの子たちです。唯一の心の支えです。LEONさんのファンのコミュニティサイトがあって、そこでいつも仲間と盛り上がってます。もう私、それさえあれば現実の友達とかいらないかなって思ってしまってます。ネットの中だと本当に楽しいんですもん。無理して付き合っても自分を否定されてしまうならもういらないかなって。あ、そうだ。LEONさんの曲の歌詞って何ていうか、こう、心に響くんですよね。例えばこれ。
♪
後悔するのを待ってても
何も変わらないって知ってるだろ?
僕が立ち上がるから
君も一緒に歩きだそう
悔やまないで生きてくため
僕の大切な君のために
って、よくないですか?」
白倉円花は楽しそうに歌ってみせてくれた。
「あと、これも好きなんです。
♪
愛が欲しい 愛が欲しい
暖かい腕で抱き締めてほしい
誰かそばにいて
優しく包み込んで
涙で溺れないように
LEONさんのあの綺麗な顔でこれ歌われちゃうともうたまらないんですよねぇ」
ピピピピピ……
タイマーがなった。
「すみません、お時間です」
白倉円花は十分前とは全く違う、とても明るくていい笑顔をしていた。
「あー、もう終わりかぁ。どうもありがとうございました。あ、これ少ないですけど……」
と言って、千円札を差し出した。
「今日は学割ということで、それは結構です。よかったらまた、お話しをしに来て下さい」
神野ゆいが笑顔で言った。
「いいんですか? ありがとうございます。また来ます。必ず来ます」
白倉円花は嬉しそうにお礼を言って、バタバタと帰って行った。
神野ゆいもつられて無意識に、LEONの曲を口ずさんでいた。
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