小百合
~小百合~
小百合は神野ゆいに色んな質問をしていた。
前に「あなたのことをもっと知りたい」と言っていた通り、生い立ちや「聞くだけ屋」を始めたいきさつまでも聞いてきた。
神野ゆいも真摯に答えていた。
施設で育ったことや、ある男に出会いこの仕事を進められたこと、寄付をしていること、今、警察と政府に相談役を提案されているが、資格も何も持っていないこと。
小百合に質問されるがまま、なぜか神野ゆいも正直に全てさらけ出してしまっていた。
小百合にも心を開いている自分に驚いていた。
「はあ。やっぱりあなたって素晴らしいわね。その若さで寄付までしているなんて、私も見習わなくちゃね」
「そんなことありません。私は本当に恩返しがしたいだけなんです。出来ることなら、その連携も力になりたいと思っているのですが、残念ながらこればかりはどうにもなりそうにありません」
小百合は少し考えている。
「どうして神野さんは資格を取ろうと思わなかったのかしら。勉強するのが嫌いだとも思えないし」
「ええ、それは私のわがままになるのですが。勉強して変に知識を頭に入れたくないんです。この人がこう言っているからこれはこのパターンでこの病名が当てはまる、みたいな先入観というか、枠にはめたくないんです。私はあくまでも自分の感じる感情を信じていたいんです。知識があると、きっと思い込みでその人を判断してしまいます。そうではなくて、ちゃんと一人ひとりと向き合いたいなって。人間の心の中は決して教科書通りの枠にはまるとは思えません」
小百合は神野ゆいをじっと見ていた。
「その考えは私も同じだわ。体の病気だったら枠にはめてこの病気、と言えるけれど、心の中は十人十色と言われるように人それぞれだもの。枠にはめようとする方がおかしいわよね」
「はい。わかっていただけて嬉しいです」
また小百合は何か考えているようだった。
「そうねぇ。警察と政府にあなたのようなカウンセラーがいたら、少しは世の中も良くなるかしら。少なくとも悪い事をしようとする政治家は減るかもしれないわね。容疑者の尋問に時間がかからなくなって、冤罪も防げるようになるかしらね」
独り言のように小百合はつぶやいている。
「小百合さん、買いかぶりすぎです。私にそんな力があるとは思えません」
神野ゆいは焦った。
「あら、そうかしら」
小百合が笑う。
「でもあなたは人を前向きに修正出来る力を持っているわ。それは私が経験済みだから間違いないわね」
「そうでしょうか」
「もっと自信を持って」
「……はい、ありがとうございます」
「よし、決めたわ。私にも少しばかり権力を持った知り合いがいるから相談してみるわね。よろしいかしら」
「え、そんな、小百合さんまで」
「前も言ったでしょ。私も神野さんのお役に立ちたいのよ。協力させてちょうだい」
「何だか申し訳ないです。私がこんな話をしたばっかりに」
「私が聞いたことだもの、あなたが謝ることはないわ。あなたのことを知ることができてよかったわ。色々と聞かせてくれてありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます」
「じゃあ早速相談に行ってくるわね。こういうのは早い方がいいもの。楽しみにしててちょうだいね。悪いようにはさせないわ」
そう言うと小百合は立ち上がり、また封筒を取り出した。
「今日はいただけません。私の、自分の話ししかしておりませんので」
神野ゆいが断ろうとしたが、小百合は無理やり手に封筒を握らせた。
「いいのよ。私が満足したんですから。気にしないでちょうだい」
「はぁ……」
「それじゃあまたね。神野さん」
「あ、はい。ありがとうございました」
神野ゆいは頭を下げて小百合を見送った。
(権力を持った知り合い?)
小百合の言葉が気になった。
(一体何をするつもりなんだろう)
少し不安もあったが、小百合のことを信じようと神野ゆいは思った。
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