篠原優子



~篠原優子~



 三階の「聞くだけ屋」に篠原の妻、優子が来ていた。


 ユウタロウを見に来たのだ。


「ゆいちゃん、お久しぶりね。また一段とキレイになって」


「いえ、そんなこと。優子さんもお元気そうで何よりです」


 神野ゆいが優子に会うのは約半年ぶりだった。


「前にうちに遊びに来た時より数段キレイになってるわ。聞いたわよ。きっと恋の力ね」


「そ、そうでしょうか」


 神野ゆいは照れ笑いをする。


「ワンッ」


 ユウタロウが優子の元へ駆け寄ってきた。


「まあ、あなたがユウタロウくんね。可愛いわぁ。本当に真っ黒なのね」


 優子がユウタロウを抱き上げる。


「ちょっと前からワンちゃんを飼いたいって主人に話してたのよ。やっぱり一人じゃ寂しいのよね。ゆいちゃんも忙しそうだし」


「なかなかそちらにお邪魔出来なくて、すみません」


「ゆいちゃんのせいじゃないわ。謝らないで。何て言うのかしら、自分の子供が大きくなって、親元を離れるってこんな感じなのかなって。昔の反抗期のゆいちゃんが懐かしくてね。時々思い出すの。うちに来て、なぁんにも話さなかったゆいちゃんも、何度か来るうちにだんだん心をゆるしてくれて。高校生の頃はよく二人でお買い物に行ったなぁ、なんて」


「覚えてます。懐かしいですね」


 二人で笑いながら思い出話をしていた。


「こんにちはー」


「お邪魔しまーす」


 健太郎と佑斗が入って来た。


 ユウタロウの飼い主が見つかったので、顔を出すように神野ゆいが連絡していたのだ。


「おっ、ユウタロウ。元気そうだな」


「ユウタロウ、よかったな」


 二人はユウタロウを撫でている。


「この子たちがユウタロウを拾って来たんです」


「まあ、そうだったの。はじめまして。篠原優子と申します。ユウタロウを貰ってもいいかしら」


 優子が健太郎と佑斗に挨拶をする。


「はじめまして、健太郎です」


「こんにちは、佑斗です」


 二人が頭を下げる。


「スゴいな佑斗。ユウタロウのご主人様が優子さんだって」


「なんか俺たち、優子さんのためにユウタロウって名前つけたみたいだな」


 二人の会話を聞いて優子が笑う。


「あら、ホントね。あなたたちがユウタロウって名前をつけてくれたのね。ありがとう。気に入ったわ」


「あの、ユウタロウをよろしくお願いします」


 健太郎と佑斗が頭を下げた。


「それで、あの、俺達も、ユウタロウに会いに、時々優子さんの家に遊びに行ってもいいですか?」


 佑斗が聞いた。


「まあ。もちろんよ。遊びに来てちょうだい。あ、そうだ。じゃあ今から一緒に行きましょう。ユウタロウを運んでくださる?」


 優子はとても嬉しそうだった。


「いいんですか?」


「行きます」


 二人も喜んでいた。


「そうと決まればさっそく行きましょう。あなたたちの帰りが遅くならないようにね」


 優子が立ち上がった。


「じゃあまたね、ゆいちゃん。今度は晴輝くんと一緒に遊びに来てちょうだい。約束よ」


「はい。ありがとうございます」


「ボス、ユウタロウのこと、ありがとうございました」


「ボス、ありがとうございました」


「どういたしまして。二人とも、優子さんをお願いしますね」


「はい」


「わかりました」


 神野ゆいは最後にユウタロウを抱き締め、「ユウタロウまたね」と言って健太郎に渡した。


「さようなら」


「お邪魔しました」


「じゃあね、ゆいちゃん」


「ありがとうございました」


 みんなを見送った。


 誰も居なくなり、急にしんと静まりかえった。


 (あれ……)


 神野ゆいは最近感じるようになった寂しいという感情にまだあまり慣れていなかった。





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