晴輝



~晴輝~



 十八時に神野ゆいを迎えに来た晴輝は、ユウタロウと遊んでいた。


「可愛いなぁ、ユウタロウ」


 ゴムのボールを投げるとユウタロウが走って取りに行く。


「で、どうするの?」


 晴輝がゆいに聞いた。


「篠原さんが奥様の優子さんにユウタロウを引き取るか聞いてみてくれるって」


 神野ゆいが答える。


「いや、そっちじゃなくて。警察との連携? の方」


 晴輝が首だけふりむいて、ゆいを見る。


「ああ、それ……。晴輝はどう思う?」


「うーん。ゆいは篠原さんに恩返ししたいから、役に立つならそうしたいんでしょ。その気持ちはわかるけどさ。やっぱ正直心配だよね。犯罪者の相手をしなきゃいけないんだし」


 ボールを取ってきたユウタロウが尻尾を振って晴輝にもう一回と催促する。


「俺がどうこう言っても仕方ないけどさ」


 晴輝がボールを投げる。


「晴輝がどうしても嫌だって言うんなら、ことわる」


「えっ」


「だって今一番大事なのは晴輝だから。晴輝が嫌がることはしたくない」


 ゆいは顔を赤らめている。


「もう、本当に、ゆいは」


 晴輝はソファーに座っているゆいのもとへ行き、抱き締める。


「俺がやだって言ったらやらないの?」


 耳もとでささやく。


「やらない」


 ゆいを自分の膝の上にまたがらせて腰を抱く。


「そんなこと言われたらさぁ」


 晴輝が甘えた表情でゆいを見つめる。


「反対できない?」


 ゆいが微笑む。


「ゆい~」


 晴輝がすねて、ゆいが笑う。


「あは。でも本当に、晴輝が嫌ならやらないよ」


「わかった。気持ちだけもらっとく。だからゆいの好きにして。ゆいの助けがいる人がいるなら助けなきゃ。ゆいは必要とされてるんだからさ」


 晴輝がゆいを見つめ微笑む。


「まあ、一番必要としてるのは俺だけどね」


 おでことおでこをくっつける。


「俺のゆいを貸してやるよ」


「晴輝……カッコいい」


「うん、知ってる」


 晴輝はそう言って笑い、唇を重ねた。


「ん……」


 (こんなに幸せでいいのだろうか)


 ゆいは心のそこから幸せを感じていた。


 晴輝の舌が優しくゆいの舌と絡み合う。


「ワンッワンッワンッ」


「ん……」


 ユウタロウがソファーに飛び乗り晴輝の膝をかきむしる。


「ん、ユウタロウ? どうした?」


 晴輝の唇が離れる。


「ワンッワンッ!」


 晴輝に向かって吠える。


「なんだよやきもちかぁ。邪魔するなよ~」


 晴輝が笑いながらユウタロウを抱き上げる。


「あは」


 ゆいも笑った。





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