篠原
~篠原~
あの坂本ちえの事件から一ヶ月が過ぎようとしていた。
最初のうちはテレビで引っ切り無しに報道されていたが、もう人々の関心は他に移っているようだ。
坂本大臣は大臣の座を退き、政治の世界から姿を消した。
「坂本さんはどうされてますか」
「聞くだけ屋」に立ち寄っていた篠原に神野ゆいが聞いた。
「うん、最初は酷い落ち込みようだったけど、だいぶマシになってきた、かな。神野くんにお礼をと言っていたよ」
「そうですか……」
神野ゆいは初めて会った時の、あの素晴らしい完璧な坂本茂の姿を思い出していた。
「神野くんに相談なんだけどね」
「はい」
「警察の相談役というか、アドバイザーというか、何かを秘めていたり、口を割らない容疑者の話をこの前みたいにモニターしながら聞いてもらえないかと思ってね。まあ、犯罪者に限らず警察官や捜査官の話しもね。警察との連携をとってほしいんだ。心理カウンセラーとか、セラピストとかいうのかな」
「えっ」
神野ゆいは驚いた。
「そんなこと、私に出来るのでしょうか。だいたい私はその手の資格も何も持っていませんし、勉強したこともないんです」
「うん、その問題は後で考えるとして、どうかな、興味はあるかな」
神野ゆいは少し考えていた。
「興味はないと言えば嘘になります。私は少しでも篠原さんのお役に立ちたいんです。ただ本当に私なんかに出来ることなのかと」
「出来ると思ってるから言ってるんだよ。この聞くだけ屋の仕事も神野くんなら出来ると思ったから提案したことだしね。現に充分やってるし」
「……はい」
「少し考えてみてくれないか」
「わかりました。ありがとうございます」
その時、ユウタロウが「ワンッ」と吠えた。
「おや、犬がいるのか?」
篠原が辺りを見回す。
「ユウタロウ、おいで」
洗面台の部屋からユウタロウが篠原めがけて駆け寄ってくる。
「おお。かわいいなぁ」
篠原がユウタロウを撫でている。
「小学生の子たちが拾って来たんです。飼い主が見つかるまでここで預かることに」
「そうか、そうか。ユウタロウか」
篠原はユウタロウを抱き上げている。
「こいつはラブラドールじゃないか? 頭がいい犬だぞ」
ユウタロウをくるくる回しながら観察する。
「優子に聞いてみるかな」
「ぜひお願いします」
「うん」
ユウタロウも嬉しそうに尻尾を振って篠原の顔を舐めていた。
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