坂本ちえ



~坂本ちえ~



 次の日は朝から忙しかった。


 三階の「聞くだけ屋」で話をするため、警察の者が何人か来て、監視カメラを二台設置していた。


 その映像を四階のVIPルームで篠原達がモニターできるよう、機械をセッティングする。


 もちろん鍵は開錠したままだ。


 これで神野ゆいが安心できるだろうと篠原が考えたらしい。


 心配で来ていた晴輝がゆいの肩を抱く。


「ゆい大丈夫? 今から断わってもいいんだよ?」


 晴輝がゆいの顔を覗き込む。


「ありがとう。大丈夫。みんながいてくれるし」


「そっか」


 晴輝は笑顔でゆいを励ます。


「はい、ご苦労さん」


 篠原が到着した。


「おはようございます」


「おはようございます」


 二人は挨拶する。


 篠原は三階と四階のチェックをしている。


「うん。いいだろう」


 チェックを終えた篠原が神野ゆいの様子を伺う。


「神野くん、すまないね。こんな頼みごとをしてしまって。晴輝くんにも心配かけてしまうね」


「いえ……」


「そんな……」


 二人が頭を下げる。


「はっは。いやぁ、君たちは本当にお似合いだな。晴輝くん、神野くんは俺の娘みたいなもんだからな。よろしく頼むよ」


「はい。もちろんです」


 篠原と晴輝が笑い合っているのを見て、神野ゆいも少し緊張がほぐれていた。


「そうだ、画面ではそこまでよく映らないかもしれないから、緊急の時、例えば神野くんがちえさんの様子がおかしいと感じたり、助けてほしい時の合図を決めておきたいんだが、どうするかね? 言葉でも仕草でも何でもかまわないが」


 篠原が神野ゆいに聞いた。


 神野ゆいは少し考えた。


「そうですね、私のいつものセリフ。『お時間です』ではどうでしょうか」


「よし、わかった。神野くんが『お時間です』と言ったら突入するからな。もちろん、我々が危ないと感じたらすぐに駆けつけるけどな」


「お願いいたします」


「うん」


 篠原が時計を見た。


「さあ、そろそろ坂本夫妻が来るぞ。我々は隠れる事にしよう」


 警察の者達が皆外へ出て行った。


 篠原と晴輝も、じゃあと言って四階に行ってしまった。


 急に一人になった神野ゆいは、ソファーに座り、先程仕込んだ隠しカメラを探したが、全くわからなかった。


 (さすがだな……)


 そんな事を考えていると、ついに田中が坂本夫妻を連れてやって来た。


「おはようございます」


 田中が挨拶をする。


「田中警部、坂本大臣、ちえさん、お待ちしておりました」


 神野ゆいが頭を下げる。


「自分は階段を下りた所にいますので、何かあったら声をかけて下さい。では大臣は四階でお待ちください。ご案内します」


「うん。神野くん、すまないね。よろしく頼むよ。ちえ、神野くんだ。昨日話しただろう? 彼女が話を聞いてくれるから、何でもいいから話してみるといい。私は上で待っているからね」


 大臣は優しくちえにそう言ってから四階へと上って行った。


「ちえさんはこちらへどうぞ」


 神野ゆいはちえを案内してソファーに座らせた。


 ペットボトルのお茶をちえの前に置く。


 ちえはまっすぐに神野ゆいを見ていた。


 神野ゆいもちえを見た。


 想像していたより少しだけ背が高く、少しだけぽっちゃりしていた。


 元政治家だけあって、頭がきれそうな顔立ちだ。


 それに伴いプライドも高そうに見える。


 (何だろうか、この違和感は)


 神野ゆいはまた胸騒ぎを感じていた。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る