上条太郎と坂本茂



~上条太郎と坂本茂~



 神野ゆいは篠原を見送った後、四階のVIPルームに戻った。


「ゆいさん、何だか巻き込んでしまって、申し訳ないね」


 上条太郎が言った。


「いいえ。私が久保田のことが気になっていて。上条先生を利用したような形になってしまいました。申し訳ございません」


 神野ゆいは頭を下げた。


「それは気にしなくていいよ。ゆいさんのお陰でこうやって坂本先輩のスキャンダルも無くなったことだし。本当にゆいさんを紹介してよかったと思ってますよ」


「……恐縮です」


「二人とも、もとはと言えば私がまいた種だよ。私の方こそ巻き込んでしまってすまなかったね」


 坂本茂が言った。


「坂本大臣までそんな……。というか、三人で謝り合って、何だかおかしいですね」


「うん、それもそうだな」


「そうですね」


 皆で笑いあった。


「そういえば坂本先輩、奥様は、ちえさんはお元気ですか?」


 上条が聞いた。


「いやぁ、それが、昨年息子が留学してから、元気がないんだよ。寂しいのだろうね。家に一人ぼっちで、私もなかなか相手をしてあげられなくてね」


「そうでしたか。でしたら先輩ではなく、ちえさんにここを紹介するべきでしたね」


「そうか、神野くんみたいな話し相手がいたら、元気をとりもどすかもしれないね。うん、妻に話してみるよ。いいかな? 神野くん」


 坂本茂が聞いた。


「ええ、もちろんです。私でよろしければ、ぜひ」


「ありがとう。助かるよ」


 坂本茂も嬉しそうだった。


「さて、私達もそろそろ戻ろうか」


「はい。行きましょうか」


 二人は席を立つ。


「お二人とも、くれぐれもお気をつけ下さい。何かあった時はお互いすぐ連絡がとれるようにお願いいたします」


 神野ゆいが心配していた。


「うん、そうだな。ありがとう」


「ゆいさんも気をつけて。晴輝に目を離さないように言っておきますから」


「あ、ありがとうございます」


「では、また」


「失礼するよ」


「はい。ありがとうございました」


 神野ゆいは頭を下げて見送った。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る