調査開始
「聞くだけ屋」のVIPルームに四人が集まっている。
神野ゆい、坂本茂、篠原、そして坂本茂が呼び出した上条太郎だ。
まず神野ゆいが経緯を説明し、坂本茂が詳細を話した。
坂本茂が封筒を渡すように頼まれたのは、同期の佐々木賢也という国会議員だった。
坂本茂の前の財務大臣だ。
坂本茂と佐々木、それに坂本茂の妻である坂本ちえ。
この三人は同じ政党に入った同期で、とても仲が良かったらしい。
三人で勉強したり、食事に行ったりと常に一緒に過ごしていた。
それが五年程続き、坂本茂とちえが恋仲になり結婚し子供を授かったため、ちえは政治から離れた。
坂本茂と佐々木はそれからお互いに仕事が忙しくなり、会う機会は減ったが、たまに三人で食事に行ったりはしていたようだ。
そんな佐々木が坂本茂をはめるようなことをするだろうか。
「何ともおかしな話しですな」
篠原が首をひねる。
「とにかく、事件性があるかもしれないということで、週刊紙の方は記事を控えるよう要求しておきました」
「ありがとうございます」
坂本茂が篠原に礼を言う。
その時篠原の電話が鳴る。
「田中か、スピーカーにするぞ」
そう言って篠原はスマホをスピーカーにした。
『聞くだけ屋の通りの防犯カメラで確認しました。メガネの男は久保田隆史で間違いありません。フリーで記者をしているようです。部下が事務所に行ってみましたが、最近人の出入りはなさそうだということでした。引き続き足取りを追ってみます』
「そうか、わかった。その久保田という男と国会議員の佐々木賢也との関係も調べておいてくれ」
『かしこまりました。失礼します』
篠原が電話を切る。
「さて、久保田の方は田中たちに任せて、問題は佐々木賢也の方だな。坂本さん、行き先に心当たりはないでしょうか」
坂本茂は考える。
「思い当たる場所や人には全て聞いてみました。後は……。妻のちえに聞いてみるくらいです。まだこのことは妻には話しておりませんが」
「わかりました。タイミングをみて、都合のいい時にそれとなくでも聞いてみて下さい」
「そうします」
「ではこのことを知っているのはこの四人だけということでよろしいですかな?」
篠原が皆に問う。
「あ、大臣と久保田の接触を見たのは晴輝くんの大学の後輩の方です。久保田がここに偵察に来たことは晴輝くんも知っております」
「わかりました。ではこれから他言は無用です。私どもは佐々木賢也と久保田隆史の行方を追いますので、皆さんはなるべく普段通りに過ごして下さい。もし何か思い出したり変わったことがあれば連絡して下さい。こちらも何かわかれば連絡いたします。よろしいでしょうか」
三人がうなづく。
「では、そういうことで」
篠原が先に失礼すると言って部屋を出たので、神野ゆいは下まで見送った。
「篠原さん、お手数おかけします」
神野ゆいが篠原に頭を下げる。
「また神野くんもやっかいなのに巻き込まれたな」
篠原が笑う。
「とにかく気をつけるんだよ。あまり一人にならないことだ。三階もしっかり鍵をかけるように」
「はい。ありがとうございます」
「心配するな。私がついてるんだ」
はは、っと笑い篠原は車に乗り込んだ。
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