坂本茂



~坂本茂~



 上条太郎から坂本茂が来ると連絡を受けた。


 いよいよ対面の時がきた。


 神野ゆいがVIPルームに案内する。


「どうぞ、お掛けになって下さい」


 坂本茂がソファーに座る。


 テレビ等で何度か見たことはあったが、実物の坂本茂は背も高く、体格もよく、なんとも端正な顔立ちだった。


 上条太郎が、強くて優しくて格好いいと言っていた理由がよくわかった。


 男性から見ても憧れの存在となるであろう。


 これで仕事もこなせるとなれば、向かうところ敵なしといった感じだ。


 そんな男がなぜここを偵察なんかするのか、神野ゆいは不思議に思っていた。


「はじめまして、神野ゆいと申します。今日はお忙しい中、わざわざお越しいただきありがとうございます」


 坂本茂は優しい眼差しで神野ゆいを見ている。


「はじめまして、坂本です。いやぁ、あまりにも上条の奴がここを勧めるもんでね。ならば、と思って来てみました」


「上条先生は、とても坂本大臣のことをお慕いしておられて。あなたが何か悩みや問題でも抱えているのではないかと大変心配しておられました。それで私の所へ、と」


「そうですか。とにかくあいつは一度でいいから神野くんと話してみろ、話してみろとうるさくてね。私は別に話すことはないと言ったんだが。あいつは何か勘違いしたんだな。私は特に悩みというものはないんだけどね」


 坂本茂は少し申し訳なさそうにしている。


 神野ゆいも戸惑っていた。


 坂本茂が嘘をついている様子はまるでない。


 それどころか、とてもまっすぐで正直で、ましてや金銭の受け渡しや偵察など、そんな浅はかなまねをするような人間にはとてもみえない。


 (どうなってるんだ?)


 神野ゆいは混乱していた。


「あの……」


 こうなったら聞いてみるしかなかった。


「坂本大臣、なぜあなたは秘書の方を、ここへ偵察に来させたのですか?」


 坂本茂は驚いている。


「ん? 何のことだね? 秘書?」


 本当にわからない様子だ。


「一ヶ月程前です。あなたの秘書だという男が、あなたに頼まれたと言ってここへ偵察に来ました。秘書の久保田さんです」


「いや、私は何も頼んでないし、ここのことは上条から聞いて初めて知ったことだしね。それに久保田という秘書もいないな。私の秘書は小野寺という者だ」


「えっ」


 神野ゆいは愕然とした。


 (やられた……)


 何故気づかなかったのか。


 久保田という男が秘書と言ったのをなぜ信じてしまったのか。


 自分で自分に腹が立っていた。


 あんな男にまんまと騙された自分に。


「神野くん、大丈夫かね?」


 坂本茂が心配そうに声をかけた。


「あ、申し訳ありません。少し混乱してしまいました」


「うん……。つまり、ひと月程前に私の秘書と名乗る男が来て、その男は私に頼まれて来たと言った。ってことでいいのかな?」


「はい。おっしゃる通りです。それがずっと気になっておりました。その時ちょうど、上条先生が坂本大臣のお話しをされたので、いいタイミングだと思いここをお勧めしてみたらどうかと、上条先生に提案した次第です」


 坂本茂は真剣に神野ゆいの話しを聞いていた。


「ひと月前か……」


「……何か心当たりでも?」


「うん。ないわけじゃない。ただそれと関係あるのかどうか……」


 坂本茂はしばらく考えていた。


「その頃、おかしなことがあったんだよ」


 ようやく口を開いた。





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