麗愛



~麗愛~



「ゆーいーさん」


 今日も元気に麗愛がやって来た。


「ゆいさぁん、聞いてー。麗愛ねー、花嫁修業することにしたのぉ。花嫁修業ぉ」


 麗愛は楽しそうに笑いながらソファーに座った。


「それはまた、突然どうされたんですか?」


 神野ゆいも驚きながら座った。


「えへっ、あのねー、彼がねぇ、一緒に住もうってぇ。もう少しお金貯まったらぁお部屋探しに行こうってー。だからね、麗愛、彼がお金貯めてる間にぃ、花嫁修業して、美味しいお料理とかぁ作ってあげてー、ビックリさせたいなぁって」


「まぁ、そうでしたか。それはよかったですね」


 麗愛は高校生の頃から付き合っている同級生の彼がいるのだが、まだ大学生で実家から通っている。


 アルバイトはしているが、本当に大丈夫なのだろうか。


 神野ゆいは少し心配になっていた。


「あれ、ゆいさんそんな不安そうな顔してー。大丈夫だよぉ。ちゃんと麗愛、わかってるからぁ」


「な、何をですか?」


「んー。だいたい男の人って、お金貯まったらって言うのは建前で、本当は、いつか、そのうちね、っていう意味だしさぁ。ただ先延ばしにされてるってのはわかってるのぉ。でも麗愛ぁ、その気持ちだけで嬉しかったんだぁ」


「そうですか……」


「うん。彼もぉ麗愛がこんなお仕事してるの我慢してくれてるしぃ、彼が来年ちゃんと卒業したら麗愛もお店辞めて、安心させてあげるのー。たぶん一緒に住めるのはその頃かなぁ。それまで麗愛も頑張ってお金貯めるんだ」


「本当に麗愛さんはしっかりしてますね」


「えへっ。ゆいさんにほめられたー」


「それで、花嫁修業とはどういう?」


「それそれぇ。麗愛ね、お店辞めたらぁネイルサロンやりたいのぉ。だからね学校行ってお勉強するんだぁ。それとぉ、お料理教室に行くのー。お店の女の子が行っててね、すっごく良い所なんだってー。ネットで見つけたらしいんだけど、月に二回で、教え方が上手で、ほんっとに美味しいんだってー。高野料理教室っていうんだけどぉ、たまにその先生の旦那さんが来て、みんなのお料理の味見して、感想とか言ってくれるのが珍しくて、話題になってるらしいんだー」


 (高野……料理教室……)


 神野ゆいは以前ここに来た高野のことを思い出した。


「ネイルとお料理ですか。本当に素晴らしいですね、麗愛さんは」


「あは、またほめられちゃったー」


 麗愛は嬉しそうに、ソファーで足をピョンピョンさせていた。


「あ、だからさぁ、ここにはあんまり来れなくなると思うー。ゆいさんごめんねぇ」


「そんな……謝らないで下さい」


「だってぇせっかく仲良くなれたのにぃ。てゆーか、麗愛が勝手にゆいさんのこと、お姉さんだったらいいなぁって思ってただけだけどねー。麗愛一人っ子だからさぁ、ずっとゆいさんみたいなお姉さんが欲しかったのー」


「私も麗愛さんのことは、お客様というより、その……友達……みたいな……。とにかく、毎日来てくれて、色んなお話が出来て、その、楽しかったんです。本当に」


 神野ゆいは自分の感情に少し興奮していた。


「あは、ゆいさんありがとう。こんな麗愛に少しでも心開いてくれてさ。まぁ、たまには顔出すからさぁ。ここにずっと居てね」


「はい。本当に、たまには顔を見せて下さいね。私はここで、麗愛さんを応援していますから。ずっと、ずっと」


「うん。麗愛頑張るねー」


 神野ゆいは、あまり感じたことのない、寂しい、という感情を抱いていた。


 麗愛の一途でけなげな愛と、その素直な性格を愛おしく思っていた。





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