LEON
~LEON~
VIPルームのソファーで男が眠っている。
今、CMや映画の主題歌で彼を使えば大ヒット間違いなしと言われている人気ミュージシャン、LEONだ。
彼も時々ここにやって来て、仮眠をとっては帰って行くという変わった男だった。
神野ゆいはLEONの寝顔を見ているのが好きだった。
とても美しく、まるで死んだように静かに眠っている姿は綺麗な人形のようだった。
一時間程たって、LEONは目を覚ました。
「そろそろお迎えが来る頃ですよ」
神野ゆいがそっと声をかける。
「ん、ああ。そんなに寝てた?」
LEONは起き上がり、ソファーに座りなおす。
「ええ、とてもよく」
「ここが一番良く眠れるよ。何も考えないでいい場所はここだけだからね」
LEONはまだ眠そうにゆっくりと話す。
「常に周りに人がいるんだ。早く曲作れって言うくせにさ。移動中も待ち時間にも。集中しなきゃ曲作れないのにね。家に帰ってやっとの想いで作業出来るんだけど、集中しすぎて気づいたらもう朝。寝なきゃ寝なきゃって思うけどアドレナリンが出てるから眠れない。もっと一人の時間がほしいよ」
「それだけLEONさんの曲を待っている人たちがいらっしゃるのですね」
神野ゆいも、LEONの歌が大好きだった。
透き通るような声とアコースティックギターがとてもよくからみあっていて、聴く度に癒されていた。
「ありがたいんだけどね。好きなことをやってるはずなのに、時間に追われて、惰性で曲作って、惰性で歌歌って、って、何か間違ってる気がする。前は一曲一曲丁寧に作って、もっともっと歌うのが楽しかった。うん。心が充実してたっていうのかな。もちろん今も楽しいは楽しいんだけど、あの頃はもっともっと楽しかったな」
LEONは遠い眼をしている。
「それほど好きな音楽をお仕事に出来るって素晴らしいことですね」
「……そうだね。贅沢言ってられないか。好きなことをやって、それをみんなが認めてくれてるって、こんなに幸せなことはないのにね」
「それに、LEONさんは惰性でって感じてるかもしれませんが、惰性であんないい曲、いい歌は歌えませんよ。惰性なんかじゃない。ちゃんとLEONさんの音楽を愛する気持ちが入っています。少なくとも私はそう思って聴いてますよ」
「あは、ありがとう、ゆいちゃん。うん。もっといい歌、歌えるように頑張るよ」
「楽しみにしています」
LEONのスマホのバイブが鳴っている。
「ヤバっ。もう行かないと。ゆいちゃんありがとうね。また来るよ」
神野ゆいは鍵を開けた。
「はい。ありがとうございました」
LEONを見送った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます