金田
~金田~
VIPルームに金田という男が来ている。
彼は最近よくテレビで見かける美容整形外科医だ。
四十代半ばで顔もスタイルもいたって普通だが、外科医としての腕が良いらしく、キレイになりたい女性達からの人気は凄まじいものだった。
予約も半年待ちといわれている。
神野ゆいのもとにたまに来て、散々愚痴を言って帰って行くのだ。
「金田先生、随分とお忙しそうですが、お身体は大丈夫ですか?」
「いやぁ、さすがに疲れてるよ。クリニックは毎日毎日休む暇も無くひっきりなしに患者さんが来るだろ。で、その合間に手術。で、話を聞いてまた手術。ただでさえ時間がないっていうのにさ、何とか時間作れって、テレビの人達が。で、頑張って収録行って、長い時間拘束されて、実際僕が話すのなんて良いとこ五分か十分だよ? 人を何だと思ってんだよなぁ」
「それ程皆さんが先生を必要としてらっしゃるのですよ。喜ばしいことではありませんか」
「うーん。最初は嬉しかったけどさ、こうも忙しいとゆいちゃんに会いに来れなくなっちゃうじゃん」
金田は甘えるような言葉づかいで神野ゆいを見つめる。
「でもこうやってお時間を作って頂いて。ありがとうございます」
「だってさ、ゆいちゃんとお話ししないと僕生きていけないもん。ゆいちゃんの綺麗なお顔で叱ってもらわないと、ストレスたまっちゃって」
「……今日はどうされたんですか」
「何かさ、テレビの人たちって何にも解って無いんだよね。僕は外科医なのにさ、とんちんかんな質問ばっかなんだよ。例えばさ、お肌にいい食べ物は何ですか、とかさ、トマトはなぜ身体にいいんですか、どんな成分が入ってるんですか、って。そんなの僕に解るわけないじゃん。お肌のことを聞くなら皮膚科の先生の方がいいだろうし、トマトの成分聞くなら栄養士さんとか専門家いるでしょ、他にさ。もうそういうのばっかり。これだから素人はヤなんだよぉ。医者っていうだけで、全てを知ってるって思ってるでしょ。医者は医者でも、詳しいのは自分の専門分野なんだからさ。そりゃあある程度ならわかるけどさ、テレビで全国民の前で下手なこと言えないじゃん。それこそ専門分野の人達に怒られちゃうよぉ」
「ゆいちゃんどう思う?」
神野ゆいは立ち上がり深呼吸する。
「……あのなぁ、世の中の医者が、みんなてめぇみたいに繁盛してがっぽり稼いでるわけじゃねぇんだよ。しかもテレビに出てる医者なんて数える程しかいないのにわがままばっか言ってんじゃねえ! 呼んでもらえるだけでもありがたいと思えよ。何も解ってない? 素人? そんなの当たり前だろ? 少なくとも自分の専門決める前は医学の勉強してきたんだろ? 聞かれる前にそれくらい自分で少しは勉強してからテレビくらい出ろよ。甘ったれてんじゃねえよ! 腐っても医者ならそれくらいの根性見せろよ!」
神野ゆいが大声で叫ぶ。
金田は顔を赤くし、身悶えて目を潤ませて喜んでいる。
「あ~あ。気持ちいい」
金田は神野ゆいに怒鳴られることに興奮を覚えるらしかった。
「あ~、ゆいちゃんありがとう」
少しして落ち着いたのか、金田は帰り支度をする。
「さ、明日からまた頑張れるよ。またね、ゆいちゃん」
金田は封筒を渡す。
「あまり無理なされないように、金田先生。どうもありがとうございました」
神野ゆいは鍵を開けて金田を見送った。
(自分に害は無いからいいけど ……やっぱり気持ち悪いな)
仕事だ、と自分に言い聞かせて、神野ゆいは封筒の重さをかみしめていた。
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