篠原と田中



~篠原と田中~



 「聞くだけ屋」のソファーにスーツを着た男が二人座っていた。


「お久しぶりです、篠原さん」


 神野ゆいが珍しく笑顔で挨拶をした。


「なかなか顔を出せなくて、すまなかったね。元気そうでよかったよ。たまたまこの近くまで来たから寄らせてもらったよ」


「篠原さんもお元気そうで、何よりです」


「今日は俺の部下を紹介しようと思ってね。彼は私が今一番優秀だと思っている田中警部だ」


「はじめまして、田中と申します。篠原本部長にお話しは伺っております」


「はじめまして、神野ゆいと申します。篠原さんには本当にお世話になっております」


「私が留守でいない時は、この田中に頼るといい」


「わかりました。お気遣いありがとうございます。田中警部、よろしくお願いいたします」


 神野ゆいが丁寧に頭を下げた。


「はっはっ。田中、神野くんは今はこんなにちゃんとしてるように見えるが、昔はとんでもなかったんだぞ。本当に手のかかる不良少女だったよ」


「えー、そんな風にはとても……」


「まあ、今となっては誰も信じちゃくれないがな。彼女は身寄りもなくて、十代の頃は文字通り荒れてたよ。何度私の所に来たか」


「お恥ずかしい話しです」


「そんな少女の中に私は何か不思議な力を感じてね。成人した時に、こういう人の助けになれるような場所を作るよう、提案したんだ」


「今の私があるのは篠原さんのおかげだと思っています」


「手のかかる子ほどかわいいもんでね。神野くんは娘みたいなもんだよ。そうだ、上条はどうしてる? 元気にしてるか? あいつも忙しそうで、最近会ってないんだが」


「上条先生は明日いらっしゃる予定です。何かお伝えいたしましょうか?」


「そうか。いや、よろしく言っといてくれ」


「わかりました」


 篠原は神野ゆいの前ではただの優しいおじさんに見えるが、普段は警視長という立場であるため、きっと厳格に振る舞っているのだろう。


 田中が篠原と神野ゆいのやり取りに戸惑っている様子を隠せずにいた。


「田中、神野くんのことは俺の娘だと思って気にかけといてくれ。前にお前には話したと思うが、ここには権力者もたくさん来ている。彼らの秘密や弱味を探そうとする奴らがいてもおかしくない。彼女がいつ危険なめに合うかわからないからな。頼んだぞ」


「はい。かしこまりました。本部長」


 じゃあ、と言って二人は席をたった。


「本当にわざわざありがとうございました」


 神野ゆいがお礼を言った。


 田中警部もお辞儀をし、篠原の後に続いて出ていった。





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