麗愛
~麗愛~
「ゆーいーさん」
いつものように麗愛は出勤前に神野ゆいに会いに来ていた。
ソファーに座り、お金を渡す。
「麗愛さん、毎日私に一万円払って、その、大丈夫ですか?」
「えっ? ゆいさん麗愛のこと心配してくれてるのぉ? 優しーい」
「いや、誰でも心配になると思いますよ」
「あは、大丈夫だよぉ。麗愛は、ゆいさんを助けるって決めたのぉ。だってぇ麗愛に出来ることって、これくらいしかないじゃん?」
「お気持ちは本当に嬉しいのですが」
「心配ないって。麗愛、パパいるしぃ」
麗愛はケラケラ笑っている。
「だからぁ、お金のことは心配ないよぉ。エステ行きたーい、美容室行きたーい、で、ポンって。あは」
たいしたもんだ、と神野ゆいは感心していた。
「でも嘘じゃないよぉ。麗愛ここに来てぇ、綺麗なゆいさん見てぇ、いっぱいおしゃべりしてぇ、スッキリしてぇ、お肌も艶っつやになってぇ、麗愛にとって、ここはエステであり美容室でもあるんだー」
「そんな……とても嬉しいです。ありがとうございます」
これ程までに自分に懐いてくれる麗愛を可愛いと思わない訳がなかった。
今まであまり深い付き合いの友人や恋人がいなかった神野ゆいにとって、麗愛は新鮮で暖かかった。
ただ、麗愛はあくまでもお客様であることにかわりないのは、神野ゆいに寂しさもあたえた。
「あれぇ? ゆいさんもしかしてぇ、恋してるぅ?」
突然、麗愛が言った。
「は?」
「もーう。麗愛どんだけゆいさんのこと見てると思ってるのぉ。すぐわかるんだからぁ。ねぇ、誰? どんな人ぉ?」
「えっ、いや、恋だなんて……。そんな」
神野ゆいは珍しく動揺している。
「んー。そっかぁ。麗愛が思うにぃ、ゆいさんは、今まで言い寄られてお付き合いしても、心を開かず相手を不安にさせて、結局サヨナラされるパターンだなぁ。あたってるでしょ?」
「……はい」
「あは。やっぱねー。そんなゆいさんに、もしかして、初めて自分から好きと思える人が現れたぁ?」
「う、いや……」
どうして麗愛はこんなに鋭いのだろうか。
「そっかそっかぁ。初恋かぁ」
(初……恋……)
麗愛の言葉にドキッとする。
麗愛はニヤニヤして神野ゆいを見ている。
「人を好きになるって大事なことだよぉ。相手のことをもっと知りたい。自分のことをもっと知ってほしい。会いたい、会いたい、触れたい、キスしたい、って。ゆいさんはそう思ってるぅ?」
「……はい」
「やーん。ステキー。ゆいさんが初恋ー。可愛いー」
麗愛は一人で盛り上がっている。
「麗愛までドキドキしてきたぁー。そっかぁ、うまくいくといいね、ゆいさん」
「そんなこと……わかりません」
「えー、なんでー。何もしないつもりぃ?」
「何も出来ません」
「ダメだよぉ。そんなんじゃ、すぐ他の女に取られちゃうよー」
「それは……」
「それは仕方ないことです、とか言うんでしょー」
「……はい」
「わかってないなぁ。恋を。なぁんにもしないで相手に彼女が出来ちゃったりしたら、一生その想いを引きずっちゃうんだよ? だったらまだ、傷付いた方が何億倍もマシなんだからね。ゆいさん」
神野ゆいは何も言えなくなってしまった。
きっと麗愛の言うことが正しいのだろう。
「まぁ、恋なんてやろうと思って出来るもんじゃないからさー。恋してるこの時間をおもいっきり楽しんでねー。麗愛は応援してるからねー」
「ありがとうございます」
それからまた麗愛はタイマーがなるまで話をし、「聞くだけ屋」を後にした。
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