上条晴輝
~上条晴輝~
「お邪魔しまーす」
ノックをして入って来たのは、暇さえあれば必ず「聞くだけ屋」に顔を出す
「ゆいさん元気? 変わりない?」
晴輝は長身で綺麗な顔立ちの大学生だ。
何度かモデルにスカウトされた事があるらしい。
その優しい笑顔と人懐っこい性格はさぞ多くの女性を虜にするのであろう。
「晴輝くん。いつもありがとうございます。大丈夫です」
「何かあったらすぐに連絡してよね。俺も親父もゆいさんのファンなんだからさ」
「……はい」
ここ「聞くだけ屋」には、政治家、医者、弁護士等の権力者もよくお忍びで来ている。
皆、人には言えない話や愚痴を聞いてもらいに神野ゆいのもとに足を運ぶのだ。
上条晴輝の父親は上条太郎という国会議員で、彼も神野ゆいに何度も話を聞いてもらっている権力者の一人だ。
「お父様はお元気ですか?」
「相変わらずだよ。忙しいのか知らないけど、まともに顔を見るのはテレビの画面でぐらいかな」
「晴輝くんもお忙しいのでは? 一週間程来なかったので」
「何? 俺に会えなくて寂しかった?」
晴輝は神野ゆいの頭を撫でて顔をのぞきこんだ。
「ごめんね、俺も会いたかったけど、レポートとかたまっちゃっててさ」
「そ、そうですか」
「あは、可愛いなぁ、ゆいさんは」
晴輝は笑いながらソファーに座った。
「てか、親父に感謝だな。最初にオレの変わりにここを見守れって言われた時には何だそれ? って思ったけど、ゆいさんに一目惚れしちゃったからなぁ」
「……私もお父様には感謝してます。お陰で変なお客様は二度と来ないようになりましたから」
「俺にも出会えたしね?」
晴輝は屈託のない笑顔を神野ゆいに向ける。
「え、あ、まぁ」
「もう、ゆいさんちょっとは俺のこと、真剣に考えてよ~」
「お客様にそういう感情は……」
「俺、客じゃねぇし」
「そうですが……」
「ならデートしよっ」
「デ、デート?」
「ご飯くらいいいじゃん、ご、は、ん」
「……」
「まぁ、俺本気なんで、ゆいさんちゃんと考えといてね」
「は……ぃ」
「じゃ、俺行くわ」
晴輝が立ち上がった。
「あ、そういえば、うちの大学でも結構ここの噂が広がってんだよね」
「そうなのですか?」
「うん。何か嫌な事が起きなきゃいいけど。ちょっとでもおかしな事があったら連絡して。俺でも、親父でもいいからさ」
「わかりました。気をつけておきます」
「じゃあね、ゆいさんまたね」
「ありがとうございました」
晴輝は手を振りながら出ていった。
神野ゆいは床に座りこんだ。
緊張していた体から一気に力が抜けた。
(あーもう……うるさい)
心臓の音がドキドキとうるさかった。
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