麗愛



~麗愛~



「ゆーいーさーん」


 本当に毎日毎日よく飽きないものだ。


 神野ゆいは笑みをうかべた。


「ねぇ、今このビルから小学生が出てきたんだけど、もしかして、ゆいさん小学生にも手ぇ出してるのー?」


「いえ。今日がはじめてです」


「んっとにスゴいなー、ゆいさんは」


 いつものように麗愛はソファーに座った。


「あれ? ゆいさん何だか疲れてない?」


 麗愛が心配そうな顔で見つめる。


「疲れてるわけではありませんが、少し困っています」


 神野ゆいもソファーに座り、タバコに火をつけた。


「最近よく意見を求められます。以前は本当に聞くだけでした。ただ会社の愚痴を言う、ただ家族の不満を言う、ただ自分の事を話す、ただ夢を語る。それが今では必ずと言っていい程、皆さん何かしらを求めてきます。これでは「聞くだけ屋」ではなく、「何でも相談屋」になってしまいます」


 麗愛が驚いた表情をしている。


「ゆいさんからお話ししてくれるなんてー。麗愛チョーうれしーい!」


 神野ゆい本人も驚いていた。


 麗愛が自分を慕って毎日会いに来てくれる事で、少しだけ心を許していた自分に。


「うーん、よくわかんないけどさぁ、やっぱ一方通行の片想いじゃみんなつまんないんじゃない? そりゃあ聞いてくれる人がいるだけでうれしいけどぉ、ひと言でもいいから反応が欲しいわけー。そうなんだーとか、よかったねーとかだけでもさ」


「そんなものなのですかね」


 人は何かしら人に言えない秘密や思いをもっている。


 言えないからこそ、知らない所で知らない人に話してスッキリしたいものではないのだろうか。


「それに、ゆいさんの意見とかぁ、アドバイス? って、何かこう胸に響くっていうかー、グサッとくるんだよねー。だからみんなゆいさんに何か言って欲しいのー。ズバッとね」


「でも実際ただ聞いてもらうだけの人もいるんでしょ? なら、あんま気にしないで今まで通り、対話オプションでいいんじゃなーいー? あ、やだー。麗愛、ゆいさんにえらそうにぃ」


「いえ、真剣に考えて下さって。ありがとうございます」


 意外だったが、麗愛に話したことで神野ゆいはあたたかい気持ちになっていた。


「麗愛ホンットにうれしいよー。ゆいさんが心開いてくれた感じぃ? 友達みたーい……あ、麗愛もう行くね。今日は同伴なんだー」


 麗愛がお金を払おうとバッグをあさりだした。


「今日はいただけません。私が話しただけですので」


 神野ゆいがそう言うと麗愛はわかったと言って急いでドアまで行った。


「じゃあね、ゆいさん、またねー」


 麗愛が出て行ってから神野ゆいは窓から下をのぞいた。


 (友達……か)


 麗愛が急ぎ足で通りを歩いていくのが見えた。





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