麗愛



~麗愛~



「ゆーいーさん! 来たよー」


 勢いよくドアを開けて入ってきたのは、ここ最近毎日顔を出している麗愛れいあだった。


「今日は~、オプションの対話にするね。はい、一万円」


 麗愛は手に持っていた一万円札を神野ゆいに渡すといつものようにソファーに座った。


「ほんっとにこのビル、ボロくて汚ったないよねー。エレベーターもないしさー」


「で? 今日はどうしたのですか?」


 神野ゆいはタイマーを一時間でセットした。


「もーう、ゆいさんってホントに冷たいんだからぁ。クールビューティーってヤツ? 麗愛はただぁ、出勤前にゆいさんとお話ししたかったのぉ」


 麗愛はこの近くのキャバクラで働いている。


 華奢で可愛らしく、いかにもという感じだ。


 二週間ほど前に初めて「聞くだけ屋」に来てから、何故か神野ゆいに懐いていた。


「いっつも麗愛ばっかお話ししてるからさ、ゆいさんの事、もっと知りたいなぁって。ねえ、何でも答えてくれるー?」


「はい。答えられる範囲で努力します」


「じゃあさーじゃあさー、ゆいさんは彼氏いるのぉ?」


「いえ、いません」


「前から気になってたけどぉ、ゆいさんって何歳なの?」


「二十五です」


「ふーん、麗愛の五コも上かぁ。ねえ、どうしてこんな場所に決めたの? 周りは飲み屋とかいかがわしいお店ばっかでさぁ」


「家賃が安かったからです」


「あ、あと聞きたかったのが、どうして初回は十分だけなのぉ? 短すぎない?」


「冷やかしや、エロい話を聞かせようとする変態の相手をするのは十分が限界だと思ったからです。それに……」


「それに?」


「十分あれば、その方がどういった性格で、何を悩んでいるのか、何と言ってもらいたいのか、どうして欲しいのかがわかると思ったからです」


「へぇー。やっぱゆいさんってスゴーい。麗愛ますますファンになっちゃったぁ。ねぇ、うちのお店で働かない? やってる事は同じでしょ? お客さんの話を聞いてぇ、一緒にお酒飲んでぇ」


「お断りさせていただきます」


「絶対今より稼げるってー」


「酔っぱらいの相手はいたしません。ですからここは十八時までの営業です」


「もーう、つまんないなぁ。そんなに美人なのにもったいないー」


「ねぇ、その冷やかしとかエロ変態オヤジとかがまた来たらどうするのぉ?」


「それはあり得ません」


「は? あり得ないって? どういうこと?」


「そのような方々は二度とここには来ないように処置をいたします」


「はぁ!? 何か急に怖いんですけどー。処置って何ー?」


「それはお答えできません」


「まぁいっか。でもちょっと安心したー。こんな治安の悪いとこにゆいさんみたいな女性が一人って危ないもん。大丈夫そうで安心したー」


「ご心配ありがとうございます」


「あ、そういえば昨日のお客さんがさぁ……」


 麗愛はそれからタイマーがなるまで話を聞いてもらい、「聞くだけ屋」をあとにした。


「ゆいさんありがとー。また明日ねー」


「ありがとうございました」


 ちょうど十八時になったので神野ゆいも帰り仕度をした。


 表の通りはだんだんと騒がしくなってきていた。


 シャッターを開ける音も何度か聴こえてきた。


 (酔っぱらいに絡まれないうちに早く帰ろう)


 神野ゆいは「聞くだけ屋」の鍵をかけた。





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