十五話

 ガリフェ家の館内には連日、暗く重い空気が漂っていた。ローザの腹の子の父親が義賊だということは使用人達も知るところとなり、当然口止めはされ、外部に漏れ出ることはなかったが、その驚くべき秘密を抱えてしまった負担と不安で、皆重苦しい表情のまま仕事をこなしていた。


 義賊が現れたあの日以降、マデリーンとミシェルはまだローザとしっかり話ができていなかった。強引に堕胎薬を飲まされそうになっては、ローザもそんな気にはなれないのだろう。ミシェルが部屋を訪れても中には一歩も入れず、用件は扉越しで済ませていた。一方のマデリーンは部屋には入れてもらえたが、子の父親について話し合おうとすると拒否され、深い話ができずにいた。ローザは二人に対して怒鳴ったり無視することはなかったが、やはり胸には少なからずわだかまりがあるのかもしれない。父親が義賊だということを受け入れるのはかなり困難で苦悩する問題だ。それは誰しもがわかっていることだからローザは言葉こそ交わすが、本題になると感情が邪魔をして二人を拒んでしまう。言われることがわかっているからだ。義賊の子など認められない――声に出されなくてもローザにはその言葉が聞こえていた。そんな娘に両親はどう話し、説得すればいいのか模索する毎日だった。


 掃除が一段落し、アデルは昼休憩を取るため地下のメイド達の部屋へ戻ると、昼食のパンや昨日の夕食のあまりのスープなどを皿によそい、溜息を吐きながら椅子に座った。


 ローザが明かしたことで、アデルとクロードによる父親捜しは終了し、二人はそれぞれ自分の仕事に戻っていた。話を聞き出す苦労や余計な出費はなくなり、これまで通りの日常が戻ったことは良かったと言えるが、捜すと言い出した自分が結局見つけられなかったことは、アデルを深く悔しがらせていた。マデリーンに協力させ、いろいろな貴族に聞き回ったあの時間は、今となっては無意味なものでしかなかったのだ。それでもフェルナンドを襲ったアーサーを捕まえたことは唯一の功績と言えるかもしれない。しかしそれを褒められても嬉しくはない。父親を見つけてこそ喜べるのに、それは叶わなかった。このことでマデリーンが失望したわけではないのだが、それでもアデルは役に立てなかった自分の力不足を未だに痛感しながら、皿のスープをすくってちびちびと飲む。


 しかし、子の父親が義賊だとは誰が想像できただろうか。アデルが捜し続けても、おそらく義賊にたどり着くことはできなかったことだろう。何しろローザとの接点がまるで見い出せない。あえて言うのなら義賊の目標が貴族というところか。だが義賊の狙いは不正を暴くことで、ガリフェ家にそんな疑惑はないし、これまで侵入されたこともなく、ローザ個人との接点は何もないはずなのだ。けれどそれはアデルの視点から見たもので、また別の視点から見れば、義賊がローザと接触する機会があったとも言えなくはないのだろう。と言うか、現に接触しているのだから確実にあったのだ。では一体いつ、どこで――アデルは幾度となく考えていたが、その答えは今も見つかっていない。


 飲み終えたスープの皿を傍らの机に置いた時、それは目に入って来た。一枚の紙。そこには大きな見出しでこう書かれている。


『我らが民衆の英雄、ついに捕まる!』


 先日、街へ買い出しに行ったメイドが貰ってきた新聞の号外だった。英雄――つまり義賊はつい最近捕まったのだ。そこには素性についても書かれている。名はニコラス・オリエ。三十二歳。職業は大工……だから高いところでも身軽に動くことができたのだろう。ローザとは十四歳差もあるが、恋に年齢は関係ないということか。彼が捕まった時の言葉として「俺の意志は引き継がれる」と残し、連行されたとある。本当かどうかはわからないが、もし言ったとするなら、その意志は誰が引き継ぐというのか。隠れた仲間なのか、それともローザとの子なのか……いろいろと深読みをしたくなってしまう言葉だ。何にせよ、義賊は捕まり、その身は確実に極刑を科されるだろう。そうなればローザは愛する男性を、そして腹の子は父親を失うことになる。館内の暗く重い空気にその事実が拍車をかけているのは間違いなかった。生まれてくる子はどうなってしまうのか――アデルはそれを思うとやるせない気持ちで胸が苦しくなるのだった。


 だがアデル以上に苦しいのはローザだ。マデリーンに言われ、義賊についての話や号外が出たことは誰も口にしないようにしていたが、掃除のため入った部屋で、ローザはベッドで横になり、顔を覆って突っ伏していた。アデルが声をかけても弱々しい返事をするだけで、いつもの優しい笑顔を見せてくれることはなかった。その姿は見ているだけで心を締め付けた。おそらくマデリーンかミシェルに義賊が捕まったことを教えられたのだろう。それで子を諦めろとでも説得されたのかもしれない。しかしそのやり方は逆効果だろう。愛する人が残した宝物を捨てられるわけがないのだ。彼が戻ることはないと知れば、意地でも子を守る心境になるはずだ。世間がどう思おうと、ローザはきっと子を産み、最後まで守り続けるのだろう。そういう愛情溢れる女性だからアデルは彼女に好感を抱いているし、決断には賛同を示したい。だが同時に、それと同じぐらい心配な気持ちもあった。ローザの将来は暗いものにならないだろうか。彼女はただ愛し合い、その人の子を授かっただけで悪いことなどしていない。けれど周囲の貴族達はそうは見ないだろう。父親の知れない子を産んだ慎みのない非常識な女――古びた思考で体裁ばかり気にする者は、そんな陰口を叩くに違いない。そうなればもちろんアデルは守るつもりだ。しかしメイドの立場ではできることに限りがある。ローザと生まれてくる子には幸せになってもらいたいが、現実はそう上手くいかないかもしれない。進む先はきっと、平坦ではないだろう……。


 休憩を終えたアデルは、皿を片付けるついでに号外を取ると、それをぐしゃりと丸めてごみ箱に投げ捨てた。誰か、ローザ様に寄り添い、手を差し伸べてくれる人はいないのか――望み薄な願いを思いながら、アデルは午後の仕事へと戻って行った。


 だが、そんな願いは数日後に叶ってしまった。


 応接間――ソファーに並んで座るマデリーンとミシェルの前に、アデルは注ぎ入れた紅茶を静かに差し出す。


「ありがとう。戻っていいわよ」


 マデリーンに言われ、アデルは小さく会釈をしながら、向かいに座る男性をちらと見た。大きな体格に明るい茶の髪と鮮やかな黄の瞳――そこにはすでに一度会い、直接話を聞いたマウリスが座っている。以前はローザが妊娠していると聞いてさっさと帰ってしまったが、今日はマウリスのほうから訪ねて来たらしい。あんな態度を見せておきながら一体何の話があるというのか……。


 その時、マウリスの目がアデルに向いた。視線が合いそうになり、すぐに顔をそらしてアデルは応接間を出て行った。扉を静かに閉めて、ふうっと息を吐く。だがその目は見えない扉の奥を見つめる。マウリスがなぜ来たのか、やっぱり気になる。ローザ絡みのことには違いないのだ。どんな話であれ、ローザを守りたいアデルは知っておきたかった。周囲の廊下を見回し、どこにも人影がないのを確認すると、扉にそっと耳を当て、中の三人の会話を盗み聞く。こんなところを見られれば確実に叱られるが、それを恐れるよりも話の内容を知るほうがアデルにとっては優先すべきことだった。耳を澄ませると、奥から三人の声が聞こえてくる。


「――まさか、本当にご連絡をいただけるとは思ってもいませんでしたわ」


 どこか皮肉が混じったような口調でマデリーンが言った。


「そう申し上げたように、出直して再び参りました」


 マウリスはたじろぐことなく、はきはきと言う。


「出直してまで私達に話したいこととは一体何だね」


 少し神経質な声でミシェルが聞いた。


「お二人のご息女、ローザについてですが――」


 アデルは扉に付けた耳をさらに押し付け、マウリスの声に集中する。


「私はやはり、ローザへの思いを捨て去ることはできません。彼女のことを、心から愛しているのです」


 その気持ちは以前の時にも聞いていた。そう言いながら妊娠していると知った途端、そそくさと帰った姿はアデル達をがっかりさせたものだ。つまり、言葉でなら何とでも言えるということだ。


「娘を愛しているから何だというのだ。ローザが妊娠していることは知っているのだろう」


「はい。お聞きしています」


「そんな娘を、愛せるというのか? 自分の子でない子を身ごもっているのだぞ」


「身ごもっていようといまいと、関係はありません」


「関係なくはないだろう。そちらは大貴族と呼ばれる名家だ。素性の知れない子を持つ娘との交際など、許されるとは思えないが」


「いえ、そのご心配は無用です」


「無用って、なぜなの? まさか……ローザを説得して、堕胎させる気で――」


「そちらがなさったような、そんな危険なことはしません。ローザも望まないことでしょう」


 アデルは眉をひそめつつ、耳を傾け続ける。


「では、どうするというの? アルバクス卿が納得なさるとは到底思えないけれど」


「私は大貴族と呼ばれる父の息子ですが、家督を継ぐ必要のない四男です。同じ貴族であれば、長男以外の息子がどういう立場であるか、おわかりですよね」


 四男という情報はアデルは初耳だった。貴族の家庭で重視されるのは跡継ぎとなる長男で、それ以外の子供は大事にされない、という言い方は語弊があるが、長男の補佐役だったり、自分で新しい商売を始めたり、自由奔放に遊び回ったり……つまり好きにさせている家が多いのだ。長男さえ真面目に、健やかでいてくれればいいというのは、貴族における社会通念と言える。


「父は四男である私にさほど興味も関心も持っていません。なのでどんな女性を紹介しても、頷き一つで済ませるでしょう。まあ、農家の娘でも連れて行けば、さすがに顔をしかめるかもしれませんが、ローザは幸いこちらのご息女です。父には反対する理由などないはずです」


「大ありだろう。娘は他人の子を妊娠しているのだ。そんなことを見逃すはずが――」


「父に身ごもっているのが誰の子かなど、わかるわけがありません」


 アデルは小さく息を呑んだ。マデリーンとミシェルの声も一瞬途絶え、短い静寂が流れた。


「……それは、どういう意味だ? まさか、嘘を言う気では……」


「ええ、その通りです。授かった子は私の子と言うつもりです」


 妊娠していると聞いてすぐに帰った人とは思えない、大それた言葉だった。ローザを愛しているというのは口先だけではなかったらしい。でなければこんな考えすら浮かんでいないだろう。上辺だけのよくいる貴族かと思っていたアデルだが、これはもしかするとという期待がにわかに湧き上がってきた。


「ま、待ってちょうだい。そんな重大な嘘をついて、後に露見でもしたら、あなた以上にローザが辛い目に遭うことになるのよ?」


「ですから、父は私に関心がなく、子が誰の子かなど調べることはまずありません。私が自分の子だと言えば、疑問も持たずに認めてくれるでしょう。それでも、万が一ローザが責められるような状況に陥ったとしても、私は自分の子だと言い張って彼女を守ってみせます。この嘘は私の中では真実になるのですから」


 力強く言うマウリスに、アデルは感心し、頼もしさを感じ始めていた。


「しかしだな、恋人と紹介しておきながら別れるようなことがあっては、娘の将来はますます――」


「私はローザとの結婚を望んでいます」


 驚いて思わず声が出そうになったアデルは咄嗟にその声を飲み込む。部屋の中からは二人の裏返った声が聞こえてきた。それだけでひどく驚いた表情が想像できた。


「け、結婚? 交際を望んでいたのでは……」


「以前うかがった時はそうでしたが、子がいるのであれば変わります。私の子と伝えるのですから、それで結婚の話をしないのもおかしいでしょう。出直してうかがったのは、その決断をするためでもありました。ローザをぜひ、私の伴侶として迎えたいのです」


 これは、ローザに手を差し伸べるどころではない。がっちりとつかみ、抱き締めてくれるぐらいの申し出だ。他人の子を孕んでいると知りながら、その子の父親として結婚を申し込むなんて、血筋を重視する貴族としては考えられない行動だ。しかもマウリスは大貴族……ローザにしても両親にしても、断る理由が見当たらないほど申し分のない相手でもある。一度はがっかりさせられたマウリスが、まさかローザを助けてくれる存在に変わるとは――アデルは喜びの興奮を胸の中で抑えながらマデリーンとミシェルの反応に耳を傾ける。


 二人は言葉に詰まっているようで、もごもごと聞き取れない声で何か言っていた。かなり困惑しているのだろう。だがそれもしばらくすると落ち着いたのか、ミシェルが聞こえる声で言った。


「……その決断は、生半可なものではないのだろうな」


「私は真剣です」


「自分の子でない子も、一緒なのだぞ」


「いえ、ローザの子なら私の子でもあります」


「そうは言っても血のつながらな――」


「そんなものはどうでもいい。私はローザも、生まれてくる子も、同じように愛しく、そして愛しています。この気持ちに偽りはありません」


 考えているのか、言葉を探しているのか、二人の声は聞こえず、扉の向こうは静まり返っていた。マウリスに何と答えるのだろう――どきどきしながらアデルは待ち続ける。と、おもむろにミシェルの声が聞こえてきた。


「そちらの思いはよくわかった。だが、この話は一方の者だけで進められるものではない。娘の思いも聞かなければ私達は返事のしようがない」


「わかっています。何より大事なのはローザの気持ちです。確かめてからのお返事で構いません。私はそれまで待ちますので」


 すると三人が動くような気配がした。ソファーから立ち上がったようだ。


「できればローザに一目会いたかったのですが、それでは気持ちを確かめるのに邪魔でしょうから、今日はひとまず失礼します」


「ローザの意思を確認したら、またご連絡を差し上げます」


「わかりました。……あまり遠くない日に、またこちらへうかがえることを期待しています」


 三人の足音が扉に近付いて来るのを感じてアデルは耳を離すと、急いで廊下の角に身を隠した。


「あれ? アデル、何してるの?」


 隠れた背後からちょうどヘティがほうき片手に歩いて来て声をかけた。


「今日は二階の窓拭きをするんじゃ――」


「い、今から行くところよ」


 角の向こうをちらちら気にするアデルを、ヘティは怪訝な目で見る。


「……何? そっちに誰かいるの?」


 アデルの横から顔をのぞかせたヘティは、応接間から出て来る三人を見つけて聞いた。


「そう言えば、どなたかお客様がいらしてたわね。あの若い男性がそう?」


「ええ、そうよ。とても大事なお話をしに来てて……」


「何でアデルが知ってるの? また奥様から秘密の仕事でも頼まれてたの?」


「え、まあ、そんなところ、かな……」


 笑ってごまかしながら、アデルは廊下を歩く三人の後ろ姿を眺めた。


「もしかすると、近々良い知らせを聞けるかもしれないわよ」


「何よ、良い知らせって」


「そのうちわかるわ。そのうちね……」


 ローザとマウリスは結ばれるだろう――アデルはそう確信していた。ローザの将来を思えば、大貴族との結婚という好条件をミシェルが断るはずがないし、他人の子と知りながら求婚してくれる男性など、この機会を逃せば二度と現れることはないかもしれない。両親にとっても、ローザにとっても、さらにはガリフェ家という名にとっても、拒む理由はないのだ。嘘をつく危険は残ってしまうが、それでも結婚をする利点のほうが上回るはずで、そのことは本人達もわかっているだろう。二人は遠からず一緒になるに違いない。


 アデルがそう考えた通り、マデリーンとミシェルはローザに気持ちを確認した後日、マウリスに結婚を認める旨を伝えた。それからさらに数日後、結婚に向けての諸々の話し合いをするために、マウリスは再びガリフェ家を訪れた。この時点で二人の結婚を知らされた使用人達は、突然のめでたい話でようやく暗い空気が払拭され、館内も久々に明るい雰囲気に包まれていた。将来が見えなかったローザだが、もうその心配はないとあって、誰もが笑顔で喜び、花嫁となる準備の指示が来るのを待っていた。


 二階の廊下の窓からアデルは裏庭を見下ろしていた。冬となった今は整然と植えられている植物達はどれも色あせ、寒さに耐え忍んでいる様相を見せていたが、その中を歩く二人だけは暖かそうだった。外套を羽織って身を寄せ合い、互いの手を握っている。時折目を合わせては楽しそうに笑い合っていた。きっと今の二人には冬の寒さなど感じないのだろう。それにしても、本当に幸せそうだ――アデルはそんな二人の姿に目を細めた。


「お嬢様をのぞき見ってのは、メイドとしてどうなんだ?」


 不意の声に顔を向ければ、隣にはいつの間にかクロードが立っていた。


「のぞき見じゃなくて、見守ってるのよ」


「ふっ、物は言い様だな」


 笑い、クロードも裏庭の二人を見下ろす。


「私に何か用なの?」


「いや、奥様へのご用を済ませたらお前がいたからさ。何してるのかと思って。……お嬢様、結婚が決まって良かったな」


 すると、歩いていた二人はぴたりと止まると、マウリスは突然ひざまずき、ローザに手を差し伸べた。


「……ありゃ、何してるんだ?」


「プロポーズみたいね」


「結婚の話がついてるのにか?」


 ローザは差し伸べられた手をしばらく見つめていたが、ゆっくりその手を握り、笑顔を浮かべた。それを見たマウリスも笑顔を返すと、立ち上がり、ローザを自分の胸に引き寄せ、抱き締めた。


「結婚を許されるまで、マウリス様はローザ様とお会いできなかったから、ご自身でちゃんとプロポーズなさりたかったんでしょうね」


「男のけじめってやつか」


 抱き合う二人は互いに満面の笑みで言葉を交わすと、次には顔を近付け、唇を重ねた。これ以上ののぞき見ははばかられると、アデルとクロードは窓にそっと背を向ける。


「ああいう笑顔を見せてはいるが、お嬢様もお心は複雑だろうな」


「どうして?」


 聞き返したアデルにクロードは怪訝な目を向ける。


「だって、マウリス様はお子の本当の父親じゃないんだ。その父親こそ、お嬢様が愛された人で、もうこの世にはいないんだぞ」


 街を騒がせた義賊ニコラス・オリエは、すでに極刑を下され、天に召されている。民衆へのその影響力から、墓の場所は明かされず埋葬されたという。


「別にマウリス様との結婚が不本意とは思ってないだろうけど、でもやっぱり本当に愛した人と一緒になりたかっただろうなって……まあ、今さらなことだけどな」


「ローザ様は幸せだと思うわ」


「わかってるよ。俺もそう思うけど、でも、っていう思いが――」


「そうじゃなくて、思い通りの幸せを得られたんじゃないかしら」


 クロードは小首をかしげる。


「え? 愛した男は捕まって、死んだんだぞ? それのどこが思い通りなんだよ」


 これにアデルは周囲を軽く確認すると、クロードに顔を近付けた。


「あなたとはいろいろ苦労を共にした仲だから言うけど……」


「何だよ、急に」


 真面目な眼差しでクロードをじっと見たアデルは、小さな声で言った。


「マウリス様は、おそらく……義賊よ」


「……はあ?」


 素っ頓狂な声を上げたクロードに、アデルは静かな微笑みを返した。

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