三話
マデリーンに相談すると、デルフィーヌから話を聞く機会はすぐに設定された。手紙でアデル達が訪ねたい旨を伝えると、返信の手紙には都合のいい日時と共に、お待ちしておりますという返事が書かれていた。親戚であるマデリーンの頼みを断る理由はなかったのだろう。二人は大いに感謝し、約束の日となった今日、館を出てデルフィーヌの元へ徒歩で向かっていた。
彼女の住む館まではかなりかかるが、同じ街の中にはあるので今日中に行って帰ることはできる。それでも徒歩で向かう二人には一日がかりの遠出ではあったが。
「はあ、久しぶりに街に来たけど、やっぱりにぎやかね。眺めてるだけで楽しい気分になれるわ」
狭い道の両側を占拠するようにたくさんの商店が並ぶそこでは、威勢よく呼び込む店主や品定めする客に値踏みする商人など、様々な声が入り混じった喧騒が流れていた。アデルがメイドの仕事を休んで街に来られるのは月に一回あればいいほうで、今日は残念ながら休みではないものの、こうして歩けているだけでも心は解放されたようにうきうきしてくるのだった。
「俺も久しぶりに私服に着替えた気がするな。普段は警備用の制服しか着てないから、逆にこっちのが違和感あるよ」
暗い色のかっちりした制服から、今はシャツにベスト、そこに外套を羽織った姿で、周りの通行人と馴染んだ服装はいつものクロードの印象を少し柔らかくさせていた。ちなみにアデルも私服姿だったが、メイドの制服と同じブラウスとロングスカートのせいか、さほど変わり映えはしていない。
「私服のクロードってちょっと優しい雰囲気に変わるけど、でもやっぱり地味ね。これだったら強さを感じる警備服のほうがいいかな」
「地味で悪かったな。そっちこそ、仕事してる時と何にも変わらない格好じゃねえか。お団子頭ぐらい変えたらどうだ?」
「言っておくけど、これが私の最高のおしゃれだと思わないでよね。外へ来てるけど今日は仕事なの。おしゃれは必要ないし、髪型を変える必要もないわ。それと何にも変わってないって言うけど、この白いショールが見えないの? これ結構いい値段するんだから」
アデルは肩にかかるフリンジの付いたショールを示す。秋に入ったこの時期、日が暮れると肌寒い日も増えてきて、休憩中や買い出しに行く時には欠かせないものだ。
「俺の上着だって親父から貰ったいいやつだ。裏地が付いてるし、内ポケットが二つもあるんだぞ」
「このショールだっていい糸使った手編みで、保温性抜群なんだから」
「これだってあったかいよ。真冬の寒さでも着られるし――」
どうでもいい服装談議を向きになってしながら、二人は喧騒の街を抜けて行く。
街の郊外へ出ると、商店や民家などは消え、代わりに大きな館が点々と立つ広々とした景観が見えてきた。この辺りには富裕層が多く住んでおり、豪商や貴族がその大半だ。そしてその貴族の中にデルフィーヌもいる。
「……住所は、ここね」
広い通りに面した二階建ての立派な館を見上げてアデルは手元のメモを確認する。鉄柵越しに見える庭には大小の植木が並び、隅には可憐な秋の花が顔をのぞかせている。石畳の道には枯れ葉一枚なく、しっかり手入れと掃除をされていることがわかる。やはり貴族の家、見栄えに関して怠るようなことはない。
「じゃあ、お訪ねしますか」
クロードは大きな鉄門に近付くと、その間から内側に立つ門番の男性に話しかけた。
「あの、今日約束してる者なんだが……」
「……ん? 約束?」
門番は険しい目でクロードに問い返す。
「ああ。こちらのデルフィーヌ様にお会いする約束で」
すると門番は懐から紙を出し、そこに目を通しながら聞いた。
「ふむ、名前を」
「クロード・ギルベールと――」
「アデル・リシェです」
二人は門番に伝える。その名を紙で確認すると門番は視線を上げた。
「男女の二人……間違いなさそうだな。今ここを開けます」
紙を懐に戻した門番は、内側の鍵を外して鉄門の片側だけを引き開いた。
「さあどうぞ、お入りください」
二人は入ると、長い石畳を歩いて館へと向かった。
「……すんなり入れてよかった」
「奥様のおかげよ。私達だけだったら完全に追い返されてたわね」
鉄門を閉めている門番にちらと振り返り、二人は小さな安堵を感じながら館の玄関に到着する。
クロードが重厚な木製の扉を叩き、しばらく待っていると、扉は静かに開けられた。現れたのは正装姿の中年男性だった。
「お待ちしておりました。リシェ様とギルベール様ですね」
温和な態度と丁寧な口調に、二人は思わず戸惑いを見せる。
「そ、そうですけど、様なんて付けてもらわなくても……」
「ガリフェ伯爵の下で働かれている方々とは存じておりますが、本日はお客様ですので。では早速デルフィーヌ様のお部屋へご案内いたします」
招き入れられた二人は男性の後ろに付いて歩き出す。
「……何か、いつもとは立場が逆になったみたいで、落ち着かないわね」
「ああ、まったくだ」
小声で言いながらアデルは館内を見回す。広さはガリフェ家とあまり変わらないようだったが、内装は当然ながらまったく違う。黄や茶を使った壁紙はどこか温かみがあり、そこに照明が加わるとさらにそれが増している。ガリフェ家には観葉植物が多く置かれているのだが、ここでは大小の絵画が壁を飾っていた。風景画や静物画など、あまり派手でないものが多い。廊下に置かれた飾り棚にも、小さな額に入った絵が置かれていた。きっと絵が趣味の家族がいるのだろう。だがアデルはそれらを眺めながら、廊下の隅や壁板の凹凸、窓枠の隙間などにも目を凝らしていた。メイドという仕事は、館のあらゆる場所を清潔に保つことが一つの使命であり、どんな些細な埃も見逃すことはできない。しかしここは使命を受けた場所ではないし、目を凝らす必要などないのだが、仕事の癖が抜けないアデルは埃の溜まりやすい場所にどうしても目が行ってしまうのだった。しかしさすがと言うべきか、目が届く場所には埃一つ見当たらなかった。こうなると意地でも見つけたくなるが、どこを探しても清潔さしかない。ここのメイドは素晴らしい仕事をしているようだ。自分も負けずに励まなければ――などと密かにメイドとしての気概を高めていると、前を行く男性の足が止まった。
「……こちらで、デルフィーヌ様がお待ちしております」
すると男性は扉を優しく叩き、一声かけると静かに開ける。
「お入りください」
促されて二人は緊張気味に部屋へ入る。
「あら、思ったより若い人が来たのね」
二人を見るや否や、部屋の中央に置かれたソファーに座る若い女性がそう言った。その顔を見てアデルは静かに歩み寄り、頭を下げた。
「本日は、こうしてお会いしてくださるお時間をいただけたこと、誠にありがたく感謝しております」
「マデリーン伯母様の頼みですもの。断るなんてことはしないわ。さあ、こちらに座って」
笑顔のデルフィーヌに手招きされ、二人は空いているソファーに並んで腰を下ろした。ここは応接間のようで、広々とした部屋は庭に面した窓から入る陽光のおかげで照明がなくとも温かな光に包まれている。その中で壁際に置かれた数々の彫像や骨董品などが文字通り煌めいて存在感を放っていた。
だが向かいに座るデルフィーヌも、それらに引けを取らない輝きを持っている。結い上げた艶やかな濃茶の髪に透き通るような肌、そこに浮かぶ上品な微笑み。装飾品は少なく、質素なドレスを着ていても、その美しさは十分感じられる容姿だ。そんな容貌はどこかローザにも似ていて、やはり従妹なのだと思わせる。
「私はガリフェ家でメイドをしております、アデル・リシェと申します」
「同じく警備主任をしております、クロード・ギルベールです」
二人の挨拶にデルフィーヌは小首をかしげる。
「メイドと警備主任……また変わった組み合わせね」
「いろいろと事情がございまして、私共が参ることに……」
「ふうん、まあ、伯母様のご事情なら深くは聞かないでおくわ」
「恐れ入ります。……あの、ところで、おうかがいしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、何?」
「そちらの、お隣のお方は……」
デルフィーヌの隣に座る、もう一人の若い女性を見つめてアデルは聞いた。
「彼女はアン。カルバリー男爵のご息女よ。小さい頃からの友達で、今日は偶然遊びに来てくれたの」
紹介されたアンはにこりと笑って見せた。
「あなた達はローザについて聞きたいのでしょう? アンもローザとは何度も会って話しているからちょうどいいと思ったのだけれど……私だけでないと困るかしら?」
「いえ、ローザ様とお知り合いということであれば、何も問題はございません。むしろお話を多くお聞きできますから助かります」
「ふふ、それならよかったわ。では何を聞きたいの? 知っていることなら答えるわ」
アデルは一度クロードを見やる。これにクロードは小さく頷き、特に何も言わず、質問はそっちに任せるという態度を見せた。従妹とは言え、妊娠について教えることはできない。かと言って回りくどく聞いても明瞭な答えを得られないかもしれない――そう考えたアデルは、まずは一番知りたい質問をぶつけてみることにした。
「ずばりおたずねしますが……ローザ様には、恋人と呼べるお相手がいらっしゃるのでしょうか?」
これにデルフィーヌは一瞬目を丸くしたが、すぐに口元に手を当てて笑い出した。
「ふっ、ふふっ……伯母様ったら、そんなことをお聞きになりたいと?」
「これはとても重要なことでして、決して興味本位ですとか、そういったことから――」
「わかっているわ。私と同じように、ローザもそろそろ結婚相手を見つける年頃だものね。恋人がいるか気になさるお気持ちは理解できるわ」
特に怪しむことなく、納得してくれたことにアデルはほっと息を吐く。
「でも、恋人がいるかなんて本人に聞いたほうが早いと思うけれど。ローザは教えていないの?」
思わずアデルの目が泳ぐ。
「そ、それは……」
「何度聞いても恥ずかしがられ、教えていただけていないようなのです。その時のご様子からは、どうやら思い人はおられるようだと仰るのですが」
クロードが代わりに答え、言葉に詰まったアデルは助かったと視線で礼を言う。
「恥ずかしがらずにはっきり言えばいいのに。別れさせられるとでも思っているのかしら」
この言葉に、アデルはデルフィーヌを見つめて聞く。
「それは、つまり、ローザ様には恋人がいらっしゃると……?」
「さあ? 私はいるなんて聞かされていないけれど。アンはどう?」
「私も知らないわ。ローザに恋人ができたなんて」
「お二人に恋人を紹介するようなことは……」
アデルの質問に二人は揃って首を横に振る。
「一度もないわね。そんな気配も感じなかったわ」
「恋人がいれば私達と会う時間も減るでしょうけど、そんなことはなかったし、だから恋人はまだいないはずよ」
友人の二人は自信ありげに言い切る。ローザに恋人はまだいない――しかし妊娠の事実からそれに近い相手が、まだ素性を明かせない男性がいることは確実なのだ。それが恋人でなく、交際もしていないのなら、ローザが思いを寄せている男性ということになる。
「それでは、ローザ様とお話しなさる中で、異性のお名前を出されたことなどはございましたか?」
デルフィーヌは宙を見上げて考え込む。
「男性の名前? どうだったかしら……」
「私は聞いた覚えはないけど。でも恋愛話は好きで、よくしているわ」
「そうね。三人で集まると大体そういう話になることが多いわね。どういう男性が好みかって」
「確かローザは、ミステリアスな人が好みって言っていたかしら」
「ああ、それ覚えているわ。ちょっと意外だったから私、驚いたもの。ローザは堅実な人がいいのかと思っていたから」
「私も驚いたわ。ああ見えてローザは冒険心も持っているのよね」
「まあ、少し謎めいた人に惹かれるのもわからなくはないけれど、私はそういう人って怪しさが勝っちゃうわ」
「現実を考えるとそうよね。何をされるかわからないもの」
二人は好みの男性について、あれこれと持論を話し始めた。その目にはすでにアデル達は映っていない。本人が言った通り、恋愛話が本当に好きなようで、楽しげに話す内容はどんどん聞きたいことから外れていく――苦笑いを浮かべながら、アデルは引き戻さなければと割って入った。
「あ、あの、ローザ様の男性の好みはわかりましたが、その他に、男性との接点など、思い当たるようなことはございませんか?」
「接点? ……何かあった?」
デルフィーヌが隣のアンに聞く。
「そうね……前に夜会に行ったことはあるけど」
「そう言えば行ったわね。……ああ、そこでローザ、何人かの男性に言い寄られていたわ」
「ほ、本当ですか?」
「ええ。アンも見ていたでしょう?」
「私は、フェルナンドと話しているのしか見ていないわ」
「お、お待ちください! フェルナンド様というのは……?」
アデルは腰に挟んでいたメモ帳と携帯用の筆記具を取り出し、記す用意をする。
「エルバン伯爵は知っているかしら? その伯爵の長男がフェルナンドよ」
「ああ、伯爵は存じ上げております。とても高いご見識を備えたお方だと」
書き込みながらアデルは答えた。
「伯爵は本当に素晴らしい方よ。それなのに息子のフェルナンドは女たらしで有名なのよ。ちょっと見た目がいいから、周りにちやほやされて育てられたんでしょうね。女性なら誰でも自分の虜になるとでも思っているのよ。勘違いも甚だしいわ」
「アン、それは言い過ぎよ。本人が聞いていないからって……でもその通りではあるけど」
デルフィーヌはくすくすと笑う。
「その、フェルナンド様とローザ様が、夜会の場でお話しをされていたのですか?」
「一旦離れたローザの元へ戻ろうとした時に、彼が話しかけているのを見ただけよ。その後すぐに去って行ったから、どれぐらいの時間話していたかはわからないけれど」
「そこで何をお話しされたか、お聞きには……?」
「ええ、聞いたわ。案の定誘っていたみたい。二人だけで飲みましょうって」
「けれどローザ様はお断りになられたのですね」
「当然よ。あんな女たらしに付いて行くのは尻の軽い女だけよ。ああいう軽薄な男はローザの好みでもないし」
「そのフェルナンド様は、思い通りにならない場合は、強引な行動に出たりなどするお方なのでしょうか?」
「泣かされたり、怒らせた女性はたくさんいるって話だけど、強引なことをしたかは知らないわ。……なぜそんなことを聞くの?」
「いえ、女性に目がないということで、断られたローザ様に何かなさっていないかと……」
「あの夜会後のことは聞いていないけれど、少なくともあの場ではフェルナンドとはもう話していないはずよ」
「女たらしでどうしようもない男だけど、わがままではないのよね。女性に対しては常に紳士的に接しているの。それが女心を騙す手口なのだけれど」
デルフィーヌは嫌悪を隠さない表情を浮かべる。
「そ、そうですか……では、フェルナンド様の他に話されていた男性というのは?」
「私が見たのは、ウィドール子爵の次男ザカリーと、イコール男爵の三男アーサーよ」
デルフィーヌの挙げた名をアデルはメモ帳に記す。
「先ほど、言い寄られていたと仰いましたが」
「ええ。私は少し離れたところから様子を見ていたの。だから会話も聞いていたわ」
「盗み聞きなんてしていたの?」
「だって気になるでしょう? ローザの恋が始まるかどうか。アンも同じ立場だったら聞きたいでしょう?」
「うーん、難しいところね……」
「人前だからっていい子ぶらなくてもいいわよ」
友人を小突くとデルフィーヌはいたずらっぽく笑う。
「……それで、ローザ様はそのお二人とどのようなことを?」
「フェルナンドとほとんど同じよ。と言ってもわかりやすく誘ったりはしていなかったけれど、ローザの気持ちを探るような話し方は、明らかに気があるとわかったわ」
「ローザ様のご様子は?」
「笑ってはいたけど、あれは愛想笑いに見えたわ。相手の気を悪くしないように、やんわり断っている感じだったわね。ローザはあの二人に対して気はないんじゃないかしら」
「こちらも、お断りに……」
「ローザと接した男性はそれぐらいしかわからないわ。でも今話した三人の男性のうち、誰かが恋人とか惹かれている相手とは思えないけれど」
「ではやはり、ローザ様にはそういったお相手はおられないと?」
「恋人はいないのは確かよ。でも片想いの相手ぐらいはいるかもしれないけれど」
「片想い? そのような節をお感じになられたのですか?」
「アンと話していたのよ。少し前からローザの様子がおかしくないかって。ねえ?」
デルフィーヌは隣のアンに目を向ける。
「ええ。数ヶ月前からよ。三人で会って話していても、ローザはなぜだか上の空でいることが多くなって。どうかしたのって聞いても何でもないって答えるだけだったわ」
「初めは体調がすぐれないのかと思っていたけれど、そんなふうには見えなかったし、私達とも変わらず会ってくれていたから、これはもしかしてと思い始めていたところなの」
「もしかして、とは?」
「わかるでしょう? 恋の病よ。つまりローザは恋をしているかもしれないわ。残念ながら私達には明かしてくれていないけれど」
「片想いを胸に秘めていらっしゃる、と?」
「本当のところはわからないわ。ただ私達はそう思えただけ。同じ女性としての勘よ」
ローザにまだ恋人はいない。だが思い人はいるかもしれない。友人にも教えていない、心を惹かれている男性が……。しかしこの二人には心当たりがないようだ。また別の線から捜さなければならないだろう。
「……わかりました。お話を聞かせていただき、ありがとうございました」
「あら、もういいの?」
「はい。とても役立つ情報でした。ここからさらに調べたいと思います」
「そう。ではもしローザの意中の人がわかったら、こっそり私達に教えてね」
「は、はあ。判明した場合は、ですね……」
特定されても状況が好転するかは不透明なのをわかりつつ、アデルは曖昧に頷く。
「それと、またローザと会っておしゃべりがしたいわ。最近顔も見ていないから。帰ったら伝えておいてくれる?」
「承知いたしました。ローザ様にお伝えしておきます。それでは私共はこれで失礼いたします」
アデルとクロードは立ち上がり、丁寧に頭を下げてから館を後にした。
「……で? 次はどうするんだ?」
ガリフェ家への帰り道、クロードが隣を歩くアデルに聞いた。
「一番親しいあのお二人が仰るのだから、ローザ様には恋人はおられないんだと思う。でも思い人はいらっしゃるご様子……」
「その思い人と、子の父親が同一人物かはわからないだろう」
「ええ、そうね。だからどちらの場合も想定して調べないと」
「どちらの場合もって、何だよ」
「つまり、ローザ様が承諾したお相手なのか、そうでないお相手だったのか……言ってる意味、わかるでしょう?」
複雑な表情を浮かべるアデルを見て、クロードも同じ表情になる。
「夜会で、ローザ様が言い寄られてたって話が気にかかってるのか」
「ローザ様は決して軽率なお方ではないと思ってるけど、酒の出される席で、無防備になる瞬間もないとは言えないわ。私は絶対に思い人であったと信じてるけど、それを証明するにはあらゆる可能性を調べて、潰していくしかない……」
アデルは腰に挟んだメモ帳を取り出し、そこに書かれた名前を見下ろす。
「接触した三人の中で一番怪しいのは、フェルナンド様ね」
「女たらしの伯爵家長男か……まあ、可能性としては確かに一番かもな」
「泣かされた女性が多くいるらしいけど、その中の一人にローザ様がいないことを願うばかりだわ」
「じゃあ、次はそいつのとこか」
「奥様に頼んで、また約束を取っていただかないと」
書き記したフェルナンドの文字をしばし見つめると、視線を上げたアデルは足を速めて歩き進むのだった。
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