第3話

「何、考えてるんだ?」

 ルナは何かを考える時に顎に人差し指を当てる癖がある。

 その仕草をしている時は何か考え事をしている証拠だ。

「決めた!」

「何を?」


☆☆☆


「私が通い妻になってあげる!」

「え?」

「何、私じゃ不満?」

  

 ルナは頬を膨らませた。


「いや、そんなこと言ってないだろ。いきなりそんなことを言い出すからビックリしただけだ」

「じゃあ、行ってあげるね! 勉強はあんまりできないけど、料理には自信あるから!」

「そうなのか?」

「うん! いつか勇司と再会した時にしっかりと胃袋を掴めるようにママにたくさん教えてもらったからね!」

「それは食べるのが楽しみだ」

「てことは行ってもいいってことだよね?」

「そうだな。俺のために頑張ってくれたんだろ。それは食べないわけにはいかないだろ」

「じゃあ、勇司の家教えてね!」

「分かった。ところで、まだ着かないのか?」


 ルナと歩き始めてかれこれ十分くらい経つ。


「もうすぐ着くよ」

  

 歩きながら勇司は思っていた。

 勇司の新居もこの近くだと。

 もう少し歩けば勇司の新居にも到着する。

 そして、数分後……。

 ルナはピタリと歩く足を止めた。

 どうやら到着したらしい。

 ルナたちが暮らしているのはマンションのようだった。

 そして、そこは勇司の新居でもあった。


「着いたよ」

「ここか……」


 確認のためにスマホで両親からもらったマンションの写真を見たが間違いなさそうだ。


「勇司どうかした?」

「実は・・・・・・俺の新居もここ・・・・・・」


 勇司はスマホに映った写真をルナに見せた。


「えっ!? うそ!? ここじゃん!」


 ルナは写真とマンションを交互に何度も見た。


「こんなことってある!? 運命的すぎない!?」 


 もちろん運命という可能性もあるが勇司は別の可能性を考えていた。


「なぁ、もしかしてこのマンションを選んだのって誰かの親だったりしないか?」

「なんで分かるの!? そうだよ! 誰かのっていうか、私たちのママ同士が話し合って決めたんだよ!」

「なるほどな」


 どうやらこれは仕組まれた運命らしい。 

 勇司がこのマンションに住むことを決めたのは母親だった。

 あくまでも予想でしかないが、おそらく四人の母親同士が事前に話し合って決めていたのだろう。 

 仕方がないこととはいえ、勇司と三人が離れ離れになってしまったことを勇司の両親は申し訳なく思っていたのかもしれない。

 こうしてわざわざ運命的な再会を用意するくらいに。


(まぁ、しばらく怒ってたもんな。俺……)


 向こうに行ってからの数カ月は両親とろくに口も利かなかった。

 今はもちろん怒ってないし、両親ともちゃんと会話をする。


「ちなみにルナたちが住んでるのは何階?」

「七階だよ」

「そこも一緒なのかよ」

「え、てことは勇司も七階なの!?」

「そうだよ。隣同士だったりしてな」

「それだったら最高過ぎるんだけど! そういえば、夢子が昨日、今日お隣さんが引っ越してくるとか言っていたような……」

「もしかしたら俺のことかもな。俺の部屋番号はたしか703号室だったはず。そっちは?」

「私たちは705号室で一番端の部屋だよ。たしか、隣は703号室だったはず……て、隣に引っ越してくるの勇司確定じゃん!」

「そうみたいだな」


 まさかそこまで手を回しているとは。

 用意周到すぎるにもほどがあるだろ、と勇司は苦笑いを浮かべた。


(ありがとう。お父さん。お母さん)


 ここまでお膳立てをされているのだ。

 これから始まるであろう三人との高校生活を悔いのないように楽しもうと勇司は心に決めた。


「早く行こ!」

 

 ☆☆☆


 七階に到着した。


「てかさ、どうする? 私たちの家に来る理由無くなっちゃったね」

「別にそんなことはないだろ。俺は二人に会いたいし」

「家が隣同士なんだからいつでも会えるじゃん」

「そうだけど……」

「今日こっちに帰ってきたってことは、引っ越しの荷解きとかはこれからだよね?」

「そうだな」

「じゃあ、手伝ってあげるよ! とりあえず、お互いの家で一旦お風呂に入って後で合流とかでどう?」

「……そうだな」

「何その顔。あ~もしかして……私と一緒にお風呂に入りたかった?」


 ルナはニヤニヤと笑って勇司の顔を覗き込んできた。


「勇司がどうしてもって言うなら昔みたいに一緒に入ってあげてもいいけど?」


 こういうところも昔と変わらないな。

 昔の勇司だったら恥ずかしがって、断っていただろう。


(断ってもルナはいつも入って来てたけど……)


 でも、今の勇司は違う。 

 多少恥ずかしい気持ちはあるが、それよりも三人と過ごせる時間を一秒でも無駄にしたくないと思っている。

 だから……。


「じゃあ、一緒に入るか?」

「えっ……」

「なんで驚いてるんだ。一緒に入ってくれるんだろ? お風呂」


 今度は勇司がニヤッと笑った。 


「ほ、本当に言ってるの?」


 頬を赤くしたルナが聞き返してきた。


「本当だけど? てか、もしかして恥ずかしいのか? 頬が赤くなってるぞ?」

「は、恥ずかしくなんかないし!」

「おっぱいを触らせたり、揉ませたりするのは平気で一緒にお風呂に入るのは恥ずかしんだな」

「だから、恥ずかしくないって言ってるでしょ! いいわよ! そこまで言うなら一緒に入ってあげるわよ! 私のパーフェクトボディーを見て鼻血を出しても知らないからね!」


 ルナは用意してくるから少し待ってなさいと言って家の中に入っていった。

 少し調子に乗って勢いで言ってしまったが、冷静に考えるとやっぱり恥ずかしくなってきた勇司は「水着あったっけ?」と呟いて新居の中に入った。


☆☆☆

 

 第一章 了

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