第2話

「え、マジ?」

「マジマジ! 二人も勇司に会いたがってたし、お風呂にも入れるし、一石二鳥じゃない?」

「俺も二人には会いたいけど、いいのか?」

「当り前じゃん! ダメな理由なんてないよ! だって勇司だもん!」 

「そっか。じゃあ、行ってもいい?」

「もちろんだよ!」


 一度勇司から離れたルナは放り投げた傘を拾って閉じると、再び今度は勇司の腕に抱きついた。


「それじゃあ、行こっか!」


 それが当たり前のように勇司とルナは相合傘をして歩き始めた。


「ところで、勇司はいつこっちに戻ってきたてたの?」

「ついさっきだよ。ほんの十数分前に着いたところかな。こっちの高校に通うために戻ってきたんだ」

「そうなんだ! えっ!?」


 ルナかすごい勢いで勇司のことを見た。


「ちょっと待って! 今、こっちの高校に通うって言った!?」

「言ったよ」

「うそっ! ねぇ、どこの高校!?」

「赤色学園」

「私たちと一緒じゃん!」

「え、そうなの?」

「そうだよ! 私たちも来月から赤色学園に通うよ!」

「マジか・・・・・・」

「マジマジ! やばっ! また勇司と同じ学校に通えることになるなんて最高なんだけど!」


 嬉しそうにぴょんぴょんとうさぎのように飛び跳ねたルナ。


「てことはさ、毎日勇司と一緒にいれるってことじゃん!」

「そうだな」

「嬉しすぎるんだけど! このことあの二人も知ったら、絶対に喜ぶよ」

「二人も赤色学園に通うのか?」

「そうだよ! なんか分からないけど、うちらの両親が絶対に赤色学園に進学しなさいって言ってさ〜。私バカだから、めっちゃ試験勉強頑張ったんだよ!」


 両親が勇司を十色学園に進学させようとしていた理由に納得した。

 どうやら今日ルナと再会していなかったとしても、そのうち再会する未来が待っていたようだ。


「でも、これから勇司と同じ学校に通えるなら頑張った甲斐があったな〜」 

 何かを求めるように上目遣いに見つめてくるルナ。

「私頑張ったなぁ~。褒めてほしいなぁ~」

「誰に?」

「勇司に決まってるじゃん!」


 もぅ、とルナは勇司の横腹を肘で突いた。


「私が褒めてほしいのは勇司以外にいないよ。だから、褒めて!」

「そうなのか? でも、さっきあの金髪の男に私には心に決めた人がいるから無理って言ってなかったか?」

「私の心に決めた人は勇司だよ? 勇司以外ありえないんだから。昔も今も私は勇司のことが好きだよ」

「そっか。俺もルナのことが好きだよ」

「うん。知ってる!」


 ルナは満面の笑みを浮かべて頷いた。


「だから勇司に褒めてもらいたいの!」

「て、言われてもな。何て褒めればいいんだ?」

「何でもいいの! よく頑張ったね、でもいいし、凄いでもいい。とにかく勇司に褒めてもらいたいの!」

「そっか。じゃあ、よく頑張ったな。凄いな」


 そう言って勇司は傘を持っていない方の手でルナの頭を撫でた。

 するとルナは嬉しそうに「えへへ、ありがとう!」と言ってにへらに笑った。


「それにしてもルナはめっちゃ可愛くなったな」

「ほんと!? 勇司好み?」

「そうだな」

「そっか~。私、勇司好みか~。勇司もカッコよくなったよね。背だっていつの間にか私を追い越してるし、最初見た時、誰か分からなかったよ」

「そんなに変わったか?」

「変わりすぎだから! イケメンになりすぎだから! さっきから私の心臓ドキドキしっぱなしだから!」


 ほら、触ってみてとルナは頭を撫でていた勇司の手を自分のおっぱいに持っていった。

 ふにっと柔らかな感触が勇司の手に伝わる。


「どう? 私の心臓ドキドキ言ってるでしょ?」

「俺の心臓がドキドキ言い過ぎてはち切れそうだよ」

「なんで?」


 ルナは訳が分からないと言った顔で勇司のことを見た。

 ルナにとってその行動は子供の頃と何も変わらないのかもしれないが、勇司にとってはそうではなかった。

 勇司からしたらルナのその行動は心臓を破裂させてしまう可能性のある爆弾だった。


「なんでって、俺たちはもう子供じゃないんだぞ?」


 勇司はルナの胸から手を放しながら言った。


「そういう行動を気安くしない方がいいぞ。俺だって男だからな」

「別にいいじゃん。おっぱいに手を当てるくらい。子供の頃よくやってたじゃん」

「だから、子供の頃はまだよかったかもしれないけど、今は、ほら、さすがにだろ……」

「他の男だったら嫌だけど、勇司だったらいいよ。なんなら揉んじゃう?」


 ニヤーっと笑ったルナは余っていた手でおっぱいを揺らして勇司のことを誘惑した。


「揉まない」

「本当に揉まなくていいの~。チャンスだよ?」

「揉まない。そんなことしたらあの男と変わらないだろ」

「全然違うけどね。だって、私は勇司のことが好きだし、勇司にだったら何されてもいいって思ってるもん」

「だとしてもだ。それに、こんな住宅街で出来るか」

「じゃあ、家だったら揉むの?」

「それは……」


 言葉に詰まった勇司。

 そして、数秒の沈黙の後に「……揉むかもな」と言った。


「勇司のえっち!」

「先に言ってきたのはルナだろ」

「揉まないって言ったくせに。やっぱり勇司も男だね~」

「うっさい」


 勇司はツンっとそっぽを向いた。


「拗ねちゃった?」 


 ルナが勇司の頬をツンツンと突いた。


「まぁ……」 


 背伸びをしたルナは勇司の耳元に顔を近づけると「勇司だったら好きな時に揉んでいいよ。私の体はすべて勇司ものだから」と囁いた。


「寝てる時でも、外にいる時でも、一緒にお風呂に入っている時でも、勇司が揉みたいって思った時に揉ませてあげる」

「そんなこと冗談でも言うもんじゃないぞ」

「冗談かどうかは勇司が判断してね」

「じゃあ、本気にするけどいいか?」

「やっぱりえっちじゃん!」

「うっさい」


 勇司とルナは顔を見合わせて笑い合った。


「こんなバカな掛け合いするのも懐かしいなぁ~。久しぶり」

「そうだな」

「あれから三年か~。まさか三年で勇司に再会できるとは思ってなかったな~。もっと先になると思ってた」

「約束は大人になったらだったもんな」

「そうそう。だから、まだまだ先になると思ってたんだけどな~」

「もっと大人になってから会いたかったか?」

「ううん。一日でも早く会いたかったよ。なんなら、勇司が引っ越した次の日にはもう会いたいと思ってたもん」

「そっか。まぁ、俺も三人に早く会いたいからこっちに戻ってきたんだけどな」

「おじさんとおばさんはまだ向こうにいるの?」

「だな。俺だけ一人で帰ってきたからな」

「そうなんだ。てことは、一人暮らし?」

「うん」

「ふ~ん。そうなんだ~」

「何、考えてるんだ?」


 ルナは何かを考える時に顎に人差し指を当てる癖がある。

 その仕草をしている時は何か考え事をしている証拠だ。


「決めた!」

「何を?」

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