再会した幼馴染が超絶美人になっていて、半同棲生活がスタートした件
夜空 星龍
奇跡のような必然的な再会
第1話
「久しぶり。十色市」
いや、戻ってきた。
小学校を卒業と同時に父親の転勤で勇司は十色市を離れた。
「それにしても何も変わらないな」
三年ぶりの駅前は全くといっていいほど昔と何も変わっていなかった。
相変わらず駅前は寂れているし、人気もあまりない。
「さて、それじゃあ行きますか。新居に」
雨じゃなかったら最高の地元帰りだったんだけどなと思いながら勇司はビニール傘を開いた。
両親はまだしばらく向こうにいる予定になっていて、どうしても地元に戻りたかった勇司は高校進学を機に一人暮らしを始めることにした。
どうしても地元に戻りたかったのは、どうしても会いたい幼馴染の三人がいるからだ。
勇司はその三人と約束をした。
『大人になったら絶対にまた会おうね』
高校生が大人になるのかは怪しいところだが、一人暮らしをできるくらいには大人になったと思う。
三人との別れの日のことは今でも鮮明に覚えている。
四人で抱き合って、涙が枯れるまで泣いた。
「元気かな。三人とも」
あの日以来、三人とは連絡も取っていなければ一度も会っていない。
小学生だった勇司たちがスマホを持っているわけもないし、連絡先を知らなければ会う約束も出来なかったからだ。
連絡先を知っていても会うことはほぼ不可能に近かったのだが……。
もちろん連絡先を知らないわけで、三人がどこの高校に進学したのかも勇司は知らなかった。
そもそも三人が市内の高校に進学したとは限らないし、もしかしたら県外の高校に進学している可能性ももちろんある。
なんなら、あの約束を忘れている可能性もあるし、勇司のことを忘れている可能性だってある。
もしもそうなら悲しいことではあるが、仕方のないことだと割り切るしかない。
なにしろ子供の頃に交わした約束なのだから。
子供の頃の懐かしい記憶に浸りながら新居に向かっていると「なぁ、いいじゃねぇか。ホテル行こうぜ。この雨の中歩くの大変だろ」という男の声が前の方から聞こえてきた。
勇司の前にビニール傘をさした金髪の男とピンク色の傘をさした人物(おそらく女性)が歩いていた。
もう一人の人物が何も返事をしないところを見るにナンパか?
(雨の中、ホテルに誘うナンパって……)
そんなの初めて見る光景だなと思いながら勇司は少し後ろから二人の会話に耳を傾けていた。
「なぁ、黙ってないで何か言えよ」
「……」
「沈黙ってことはOKってことでいいんだよな?」
「しつこい。何度も断ってますよね。私には心に決めた人がいるんです。あなたの誘いは絶対に受けません。もちろんホテルになんて絶対に行きません」
もう一人に人物はやっぱり女性だった。
その女性の口ぶりからして二人は顔見知りのようだ。
「いいじゃねぇか別に。今ここにその心に決めたやつがいるわけでもねぇんだからよ。一回くらいバレねぇって」
「……」
金髪の男はそう言って女性の手を掴もうと手を伸ばした。
(これはどこからどう見ても合意の上ではないよな)
女性の口ぶりからしても金髪の男のことを迷惑だと思っているのだろう。
こんな状況を目の前にして勇司の性分的にほっとけるわけもなく。
さしていた傘を急いで閉じて細くまとめると、傘を竹刀のように持ち女性の手を掴もうとしていた男の手めがけて小手を入れた。
「だ、誰だよお前!」
「その辺にしとけよ。彼女、迷惑がってるだろ。明らかに自分が避けられてるの分からないのか?」
「うるせぇ! お前に何が分かんだよ!」
金髪の男は怒鳴り声をあげ、勇司のことを睨みつけた。
しかし全く怖くなかった。
なぜなら、それ以上に大きな声をいつも聞いていたし、それ以上に殺気のこもった視線を感じていたからだ。
「何も知らないけど、彼女が嫌がっているのだけは分かる」
「そんなのお前が決めんな! 嫌なのかどうかを決めるのはルナだろ!」
女性の名前はルナというらしい。
金髪の男が勇司の後ろにいたルナのことを指さして言った。
(ルナ……か)
その名前を聞いて勇司は懐かしい顔を思い出した。
幼馴染の三人のうちの一人がルナという名前だったのだ。
その名前を聞いてしまったからには、仮に後ろの女性が勇司の知っているルナでないとしても守らないといけないよな、と勇司は右の口角を少し上げた。
「だってさ、あんたはこいつのことどう思ってんだ?」
勇司は振り返り、後ろの女性を見た。
薄ピンク色のショートカットの女性は綺麗な顔立ちをしていた。
モデルと言われても納得のいきそうなレベルだ。
メイクをしているせいか少し大人っぽく見えるが、おそらく勇司と同年代。
勇司はその女性の顔を見てなぜか懐かしさを覚えた。
(まさかな……)
そんなことがあるのだろうかと勇司が思っているとショートカットの女性が話し始めた。
「さっきもあの人に言いましたけど、私には心に決めた人がいるんです。だから、こうして付きまとわれるのは迷惑です」
ショートカットの女性ははっきりと言い切った。
「それから私のことを名前で呼ばないでください。私のことを名前で呼んでいいのは彼だけです」
「そういうことらしいけど、どうする? 今すぐこの場から立ち去るなら、見逃してやるけど?」
「うるせえ! 俺がお前なんかに負けるわけねぇだろ!」
警告はちゃんとした。
それでも向かってきたのは金髪の男の方だ。
つまりこれは正当防衛。
勇司は金髪の男をいとも簡単に躱すと、金髪の男の足を引っかけた。
金髪の男は顔から地面に倒れた。
「あ~あ。だから言ったのに。痛そう~」
金髪の男はすぐに立ち上がると「くそが! お前覚えとけよ! いつか必ず仕返ししてやるからな!」と捨て台詞を残して鼻を痛そうに押さえながら走り去っていった。
かなり勢いがあったからもしかしたら鼻の骨くらいは折れたかもしれないが自業自得だ。
「さて、それじゃあ、俺もそろそろ行きますね、と言いたいところですけど、一つだけいいですか? 俺と昔に会ったことありませんよね?」
一応、人違いの可能性もあるので勇司は敬語を使った。
「えっ……」
勇司が尋ねるとショートカットの女性は目を丸くした。
「すみません。これじゃあ、まるで俺があなたをナンパしているみたいですね。忘れてください」
まるで声をかけるために助けたみたいになっていると気が付いた勇司はすぐに謝った。
そして、そのまま傘をさして立ち去ろうとした。
しかし「待って!」と服を引っ張られ引き留められた。
「名前……」
「え?」
「あなたの名前教えて」
「あぁ、名前ですか。滝浪勇司だ。まぁ、覚えとかなくてもいい……よ。どうかしましたか?」
勇司が名前を言ったその瞬間、ショートカットの女性の目に涙が浮かんだ。
そして「勇司なの……?」とショートカットの女性が一歩ずつ近づいてきた。
「私だよ。
ルナが自分の名前を言った瞬間、勇司は全身に鳥肌が立つのを感じた。
(こんなことってあるんだな……)
この再会を運命と言わずして何と言うのだろうか。
「やっぱりか。似てるなとは思ったけど、やっぱりルナだったんだな」
「勇司! 覚えててくれたんだ!」
ルナは持っていた傘を放り投げると勇司に抱き着いた。
「お、おい。濡れるぞ」
「そんなことどうでもいいよ! あぁ、本当に勇司だ! 勇司の匂いがする!」
抱き着いてきたルナは勇司の脇に鼻を当ててクンクンとした。
「脇の匂いを嗅ぐな!」
「勇司だ! 本当に勇司がいる! え、待って! ヤバいんだけど! 勇司がいる!」
キャッキャとはしゃぐルナ。
そのテンションの高さはあの頃と何も変わってなくて勇司はなぜか嬉しかった。
ちなみにあの頃もルナは勇司の匂いをよく嗅いでいた。
「相変わらずルナはテンションが高いな」
「テンションも高くなるよ! だって、勇司が目の前にいるんだよ! もう会えないかもしれないと思ってた勇司がいるんだもん!」
ルナは勇司のことをぎゅぅ~と抱きしめた。
その存在を肌で実感するように。
「勇司~。会いたかったよ~。ほんとにほんとに・・・・・・会いたかったん・・・・・・だからね」
ルナはボロボロと大粒の涙を流している。
その涙の大きさがどれだけ勇司と会いたかったのかを物語っている。
「俺も会いたかったよ。まさかこんな形で再会するとは思ってなかったけどな」
ナンパから助けた女性がずっと会いたいと思っていた幼馴染のうちの一人だなんて、どこの物語だろうか。
「どんな形でもいいよ。勇司と再会できたんだから。おかえり。勇司」
「そうだな。ただいま」
ルナの言う通りどんな形であれ、再会できたことに意味がある。
再会すらできずに人生を終えることだってあったのだから。
「たくさん話したいことはあるけど、とりあえずどこか雨宿りできる場所に移動しないか? といっても、お互い服が濡れてるから行ける場所は限られるだろうけど・・・・・・」
「それなら、私の家に来ない? 実は今、私、凛花と雫と一緒に暮らしてるんだ」
☆☆☆
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