第三話 ふたりの『こにゃたん』
「はぁ……はぁ……こにゃたん……」
僕の荒い息遣いに、こにゃたんが半歩後ずさる。
ああ。そんな怯えた顔をさせるために、わざわざ【禁忌】を犯して出てきたわけじゃないんだ。
「はぁ……お願い。話を聞いて」
「だ、だれ? 『助けに来た』って、どういうこと?」
しまった。まずはそこからか。
今は、とにかく時間も信用もない切迫した状況だが、そこは省くべきではないな。
僕は両手をあげて、敵意が無いことを示した。
「僕は
「ファン……?」
「そう。比較的熱狂的な部類のね」
そう述べると、こにゃたんは大きな瞳を見開いて、僕を上から下まで眺めた。
ああっ。もっと舐めるように見つめてくれても構わないんだよ?
けどこにゃたんは、あまりの再現度の高さに、直視するのも怖いみたい。
「まぁ、怖がらないでっていうのも無理な話だよね。でも、最初にこれだけは言っておく。僕は君を守りに来たんだ。誰にも、指一本触れさせないくらいに徹底的に。この
「コスプレ……影武者……」
単語を数回反芻した後に、こにゃたんはなんとなく状況を理解する。
元よりデスゲームなんてイカれた環境に放り込まれたんだ、常識とか良識のタガなんてある程度は破壊され済み。だからなのか、僕という変質者の存在がイレギュラーという考えは浮かばなかったのだろう。
ただ彼女の目の前には、『デスゲームで身代わりになってくれる意味のわからない味方』がいて。こにゃたんは薄っすらとそれを理解した。
そうして、桜色の唇を開く。
「ファンだから……私のこと、守ってくれるの?」
うるうるとした、星屑を散りばめたように綺麗な瞳。
だが、その涙――うっすらと浮かんだ不安が意味するものは、僕への不信だ。
「大丈夫。見返りなんて求めない。『守ってやるからキスをしろ』だなんて言わないさ」
思考を読まれ、さっと口元を隠す動作が愛らしい。
『キス』と言われて想像してしまったのか、頬を染めて、もじょもじょと膝をそわつかせる。
(う~~~~ん! かわいい!!!!)
「大丈夫、大丈夫だから。なんにもしないから。だから安心して……」
自分がすこぶる怪しいことに気が付いたのは、吐息まじりにそう呟いたあとだった。こにゃたんは、おびえた表情のまま後ずさり、机の角に尻をぶつけた。
「ひ、にゃぁん……!? いたいっ!」
「か゛っっっっわ゛い゛い゛!!!!」
生のドジっ子を目の当たりにし、歓喜に涙し膝をつく僕に、こにゃたんは「!?!?」と疑問符を浮かべてばかり。だが、僕が相当なこにゃたんファンだと理解すると、おずおずとこちらを伺ってくる。
「守さん(?)は、味方……なんですか?」
ええ、はい。そうです。左様でございます。
その上目遣いだけで、ご飯六杯はいけますとも。
僕はにこりと頷いた。
神に、いや――こにゃたんに誓う。
「僕は、味方だよ」
※あとがき
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