第二話 デスゲームとドルヲタと【禁忌】
僕の『推し』である
ユニット結成当初より入脱退を伴う数々のドラマを繰り広げ、今はふたりぼっち。
こにゃたんは、その優しさゆえに誰も捨てきれず、落ち目なユニットに残り続けた最初期メンバーにして最新メンバー……つまり天使なのだ。
「はぁ……はぁ……こにゃたん、可愛い」
今の僕は、桜崎学園の制服を纏った、『こにゃたん』そのもの。
傍目に見れば、こにゃたんがふたりいることになるが、同空間に同時に存在しなければいいだけの話だ。それくらいわけもない。
僕は、デスゲームという最悪の状況に絶望し、机に突っ伏して泣いているこにゃたんをスコープ越しに眺めていた。
「こねね、大丈夫? あたし、水取ってくるよ。誰が言い出したかわからないけどさ、このままだと食料的な意味でもヤバイ感じでしょ。とりあえず、食堂行って何か残ってないか探してくる」
「ありがと、ゆーりぃ……」
(ほんとありがと、ゆーりぃ……)
鞄を手に、背の高い茶髪の女子が颯爽と廊下を駆ける。
僕はその背に、感謝の念を送った。
ゆーりぃこと、花園ゆりぃは、『いろは坂十三番隊』の隊長で、こにゃたんにとっては唯一無二のユニットメンバー。そして親友。
たとえこんな状況でも、決してこにゃたんを裏切ったりはしない。数少ない味方とも言える子だ。
僕だって、ふたりがイチャつくところならいくらでも妄想できるが、殺し合うところなんて全く想像できない。それくらいの仲良し。
でも、もしふたりがこのデスゲームで最後まで生き残って、ゆーりぃがこにゃたんを裏切るなんてことになったら……
その前に僕がゆーりぃを殺す。
こにゃたんが、ゆーりぃの裏切りに気づく前に。人知れず――
そういう意味では、ふたりが離れ離れになったこの状況はよろしくない。
監視の対象が分散してしまうから。
それに、僕はもうひとりの『推し』も見つけないといけないし……
僕が、推しがふたりいるにも関わらずこにゃたんばかりに注目している理由はひとつだ。
『どちらかというと、こにゃたんの方が弱そうだから』。
委員長の発砲で、突如として始まったこのデスゲーム。
国内屈指のアイドル養成学校で『大粛清』という名の『劣等生排除』が始められた。
ここでいう劣等生というのは、犯罪まがいの行いでファンを増やす違法アイドルのこと。違法アイドルというとついぞ現実味のないチープな響きだが、どうやらこの学校には前々より素行の悪い生徒を問題視する話があがっていたようで、その素行の悪さが実は犯罪レベルだったということらしい。
しかも、多くの生徒が何らかの形でその悪事に加担している可能性があると。
委員長はおそらく、学園上層か芸能界の上層部の使いで、デスゲームの開始を担ったに過ぎない。もとより委員長は苦学生で、金に弱いという噂があったのだ。清楚な顔に似合わず、枕営業にも積極的だとか……
ともあれ、公式アナウンスではこうだ。
先日起きた、過激なアイドルファンによる『アンチリンチ事件』を受けて、学園側が生徒の素行を徹底調査した結果、桜崎高等学園はアイドル進学校とは名ばかりの落第生の坩堝と化していたことが判明。
『アンチリンチ事件』の被害者家族である国のお偉いさんの意向により、廃校もしくは生徒に対する大規模な粛正を行うと通達されたのだ。
これにより、学園側も『劣等生』の存在を認め、従うより他なくなったというのがおおよその流れか。
学園に仇なす不良生徒――『劣等生』を、デスゲームにより粛正、逮捕する。
それでどうしてデスゲームになるのかと、僕は訴えたい。
こにゃたんを巻き込むんじゃねーよ。
だが、資料室を漁って調べたところ、そのお偉いさんは誰とは言えないがかなりの権力者なようで、加えて反社組織との繋がりがあるらしい。
僕は、校長室に隣接する『開かずの指導室』で、パソコンにUSBをさして中身を覗いていた。オタクですもの、ハッキングくらい朝飯前さ。
足元には、後をつけてから扉を開けさせ、手刀で気絶させた委員長が伸びている。
ぐったりとした脚の奥に見え隠れする下着は、レースの黒……
どうやら、枕営業の噂もクロだったらしいな。
こにゃたんとゆーりぃには、背後からこっそりとストーキング用の小型発信機を付けておいたので、校舎内であれば居場所の確認が可能だ。
あの発信機はいわゆるトランシーバーもどきで、効果範囲が狭いからイマイチだなぁと思っていたが、学内から出られないこの状況においては十分有効な手段と言えるだろう。
どうして僕がそんなものを持っているのかって?
はは。変態をナメてもらっちゃあ困る。
外部との通信を制限された校内で、唯一ジャミングの影響を受けていないのがこの部屋だ。僕はそこで、とあるサイトの存在を目にした。
『デス
「あ~。なるほど。そういうことね……」
僕たち(正確には『僕』は含まれない)が、デスゲームをさせられている理由の全てだ。
コレ、生配信なんだよ。
『デス
廃校寸前の学園側は、そのおこぼれで雀の涙ほどになってしまった真面目で有望な生徒を(金銭的な意味で)救いたい――と、お涙頂戴的な論調で世間からわずかばかりの支持を得ている。
悪いのは全部『劣等生』。だから殺せ。
そういうことだ。
馬鹿げている。殺しに善も悪もあってたまるか。
どうしてこれで警察が動かない? こちとら学園まるごと封鎖されているんだぞ。
……と憤ったところで。
このデスゲームを生き残り、電気柵と鉄の校門を開けなければ異議申し立てることもできないってわけか。
僕はいい。僕はいいよ。元より『推し』以外の生きがいなんて無いし、この世に未練もないからさ。こにゃたんの写真さえ吸えれば、水がなくても三日くらいは生きられる。
けど……
(こにゃたんは、大丈夫かなぁ……?)
手元の発信機を見ると、なけなしの友情と団結力で解放されたお手洗いへ、こにゃたんが入っていくところだった。
……大丈夫。どれだけこにゃたんが好きでも、決してトイレは覗かない。
僕は善良な変態だからな。こにゃたんが嫌がることはしないんだ。
でも、様子を見る限りこにゃたんのいる1-Aクラスには人がいないようだった。
それもそのはず。デスゲームのスターターである委員長が1-Aだったものだから、誰も怖がって近づかないんだ。
ただ、こにゃたんだけは、ゆーりぃの帰りを待っていて取り残されてしまった。
……チャンスだ。
こにゃたんに接触する、チャンス。
本来であれば、『握手会以外でこにゃたんと接触すること』――いわゆる『繋がり』は、オタクとしてのルール違反、【禁忌】にあたるわけだけど。
(……ごめんね)
僕は、胸中でもうひとりの『推し』に頭をさげる。
ここまで状況が揃っているのは、もはや奇跡なんだ。
きみを選ばなかったことを、許してくれ。
誰にも見られず、こにゃたんにだけ接触し、彼女とすり替わる……
そうして、彼女を最後まで生き残らせる。
僕は、歪な夕陽のさす教室に足を踏み入れた。
「やぁ、こにゃたん。会いに来たよ……」
「……誰? え? わた、し……?」
教室には、本人でさえ見紛うほどの『こにゃたん』がふたりいる。
ひとりはきょとんと目を見開き、ひとりは高鳴る感情のあまり苦しい胸を抑えながら……
(ああ。こにゃたんが、僕の目の前に……!)
薄灯りに照らされる髪のなんと美しいことか。
長い睫毛に大きな瞳……動画で見たとおりの可愛さだ。
あと三歩。いや、二歩で吐息が聞こえてきそうなこの近さ。
いま僕は、こにゃたんと同じ教室の空気を吸っている……
「はぁ……はぁ……こにゃたん……」
この状況が、彼女にとって救いなのか怪奇なのかはわからない。
ただ、僕は……
「助けに来たよ。こにゃたん……」
※あとがき
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