第八話 ぷんすこ
「で? どうして守くんがメシアちゃんにキスする必要があったの?」
「それは、メシア様はガードが固くて、付き合うためには心臓を捧げる必要があるって、前に裏サイトに書かれているのを見て、ひょっとして、メシア様って初心なのかなって思ってて……虚をつくには、想像もしないような意外性のある行動をとるしかないかなって……」
「だからって、キスする必要なくない?」
「あれ? なんか、こにゃたん怒ってる……?」
「そうでもないけどっ?(焦」
「でも、そうだよね、誰だって怒るよね。自分の恰好をした人間が、勝手に誰かとキスしたら気持ち悪いもんね……絵面だけなら超百合だもん。勝手に百合してごめんなさい」
「そうじゃなくてぇ!!」
「じゃあなんで?」
そんなに怒っていらっしゃるの?
僕は、主が陥落したことで
こにゃたんによって命じられた正座なら、二時間でもできますとも。ご褒美ですとも。でも、どうしてそんなに怒っているの……?
推しの感情は熟知していると思っていたはずなのに、実際に会ってみると、わからないことだらけで困る。
「もう! わからないならソレでいいよ、守くんのバカ!!」
「えぇ!? それは僕がイヤだ! 僕は、こにゃたんの気持ちを一から百まで理解したいのに!」
「あぁ~。困った顔も素敵ですわぁ、私の
……と。呑気に僕に膝枕されているメシアが声をあげる。
「どうしてそんなことになっちゃったの!?」
「僕にもわけがわからないよ! ただ、キスをしたらメシアが懐いた! それだけだ! この膝枕は、メシアが貧血で具合が悪いって言うから……!」
混迷を極める僕らに、メシアはうっとりと。
「あ~んな情熱的なキスは初めてだったんですの。勢いよくかぶりついたかと思えば、血が出るくらいに唇に噛みついてきて。力の差で、すぐに男性だと気が付きましたわ。そうして、
ビクンッ! と仰け反って興奮するメシアを指差し、僕は。
「……ということらしいよ」
と説明するより他ない。
こにゃたんは、何故か「ぐぬぬ……!」と拳を握りしめ。
「とにかく! メシアちゃんは守くんのことが好きならなんでも言うことを聞いてっ!!」
と苦々しい顔で告げるのだった。
◇
そうして、メシアは驚くほどあっさりと、理科準備室に監禁していたゆーりぃを解放した。艶やかなポニテを床に垂らして倒れ伏すゆーりぃは、薬か何かで眠らされているようだった。その姿に、こにゃたんは安堵の涙を浮かべる。
「煮るなり焼くなり、私と3Pするなり、お好きに使ってくださいませ~♪」
「そんなはしたないこと、守くんはしないっ!!!! ゆーりぃ、大丈夫!?」
駆け寄って頬をぺしぺしと叩くと、ゆーりぃは薄っすらと瞼をあげた。
「……ん。こねね……?」
「ゆーりぃ! 無事でよかったぁ!! うわぁあああん……!」
「こねね……助けてくれてありがとう――あれ? こねね?」
「なぁに?」
「こねねが、ふたり……??」
「「あ~。そこからか……」」
目を白黒させるゆーりぃに、僕らは、事の顛末を一から説明するのだった。
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