第4話 キミって嫌われてるよ
「ってことがあってさ。ほんと進藤さんって自分が見えてないよね」
次の日の体育の時間。
自由参加のバスケットボールをサボりながら、私はたまたま横にいたクラスメートの堀江に言った。
「あの子はさ、結局、プロの漫画家にはなれないと思うのよね。あたしは何の才能も無いけど、だからこそ分かるもの。凡人には凡人にしか分からないことってあるもん。なんの才能もない、だから分かるのよ。なんていうかさ。あの子の漫画には華がないの。ね、堀江ちゃんもそう思わない?」
私は堀江に向かって一方的に話した。
彼女はそうだねと呟いてこちらを見ようともしない。
少しムカついたけどこの子はいつもこんな感じだとすぐに思い直した。
堀江はオタクで暗くて大人しい。
だからどんなに話をしても返りが少ない。
ハッキリ言って物足りないけれど、それだけに、こういう他の人間には話しにくい愚痴なんかは言いやすい。
「大体さあ、漫画って文化そのものがさ、もうオワコンになって行くんじゃないかって思うのよね。私は好きだけどさ。けど、ソシャゲとかTikTokのが人気あんじゃん。みんなと繋がれるし。漫画なんてアナログなもん、もう流行らないと思う――」
「もういいかな」
私が蕩々と語っていると、堀江が口を挟んだ。
「え? なに?」
「もういいかな。ぶっちゃけ、もう聞いてらんない」
堀江は見るともなしにバスケットの試合を眺めながら言った。
「前々から言いたかったんだけど、藤田さん、結構みんなに嫌われてるよ」
「は?」
「自分は友達がたくさん居るって思ってるんだろうけど、全然だよ。私も嫌いだもん」
「な、なによ。あんたね、私がせっかく話してあげてるのに」
「ほら出た。そういうとこが、みんな嫌なの」
堀江は立ち上がった
「どうせ自分のこと、"オタクに理解がある陽キャ"だとでも思ってるんでしょ。立ち回りとか言葉遣いとか、全部上から目線で打算的。そういうとこ、すんごい嫌味。最悪。それに、ヒマリの悪口言うのも、吉田のことが好きだからでしょ。ヒマリのせいで吉田が傷ついて学校休んでるから、それが気に食わないだけでしょ。悪いけど、くだらない八つ当たりなんか聞きたくないの。クラスには恋バナが好きな女子もたくさんいるんだからその人たちに相談すればいいじゃん。あの頭の悪い連中に愚痴ればいいじゃん。ま、どうせ出来ないんだろうけど」
堀江はそういうと体育館を出て行った。
私は胸が苦しくなって、少し蹲(うずくま)った。
堀江の言うことは全てが私の心臓に突き刺さった。
私には友達がいない。
なんとなく、自分でも分かっていた。
私の恋バナなんて誰も興味ない。
勉強もできない、容姿もよくない、得意なものもない、十人並みの私のことなんて、誰も見ていない。
だからこそ、私はクラスメート全員に好かれたい。
みんなにいい顔をしたい。
それが私という人間だ。
欠点だらけの自分を隠すために、"友達"という楯を欲しがって。
なんの特徴も無い自分を紛れ込ませるために、みんなにいい顔をして。
なにもかも堀江の言うとおりだ。
私は胸が苦しくなって膝に顔を埋めた。
堀江には全部バレてた。
吉田のことが好きなこともバレてた。
そのことが、恥ずかしくてたまらなかった。
やがて、バスケットボールの試合が終わった。
私は深く息を吸い、無理やり動悸を抑え込んで、みんなの輪の中に走って行った。
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