第10話 血で結ぶ政略
光はまだ大学を出て2年弱、彩とも相変わらず続いている。もちろん憲一には内緒であるが。彩とは同じ大学に在籍していた。光の友人の紹介で交際が始まりあっという間に恋に落ちた。
将来を誓い合うほどの2人の仲であったが、今年に入り突如問題が発生した。
彩は独りっ子であり、彩の父親は国政を二分する新生保守系政党の総務会長を務める実力者である。そう憲一と選挙で争い敗れ、比例で議席を確保したあの政敵である。
お互いの親を確認してからの交際などは、現在はほとんど存在しない。互いに惹かれ合い愛し合い求め合うことが男女の交際であり、光と彩も同様であった。
憲一は光に女性がいることはわかっていた。その事に関しては特に注文をつけるつもりはなかった。男であるから女遊びは目をつむる。しかし結婚は別である。光の結婚相手はもう既に目星をつけてある。
同じ党内にいる総理大臣の今年成人になる孫娘である。息子の嫁に欲しい旨話を通し既に確約済みでもある。
突然であった。昨日レストランで一緒に食事を楽しんだ香について、憲一から将来の予定が言い渡された。
年明けの良い日取りに挙式を行う。もう既に香の両親とも話がまとまっている。そのための食事会であった。
笑顔の可愛い女性である。優しそうで気も利きそうだ。遠慮がちで人をたてる賢い感じがする。光の好きなタイプの女性である。
香の祖父は知らない人間などいない政界の大物である。祖父は一族の安定維持のため積年の望みであった男児に恵まれず香の父親を養子にむかえた。その父親は祖父の秘書を務めている。
香の父親は真面目で優秀であった。ただそれだけであった。政治家に不向きと見抜いた祖父は自分の秘書として活用せざるを得なかった。
一族の血脈の中に跡を委せる能力を見出だせなかった祖父の目についたのは、若手であるが傑出した実力を発揮する憲一の言動であった。
『こいつを身内に取り込もう』
一族に向かい入れるため対象に上がったのは憲一の息子の光であった。
『キャリアは低いが憲一が後継と定めているということは見所があるのであろう。孫の香を使って血を結ぼう』
天下を手放したくない者と天下を盗りたい者の見る夢は、共に一族による天下の私物化である。同じ夢を見る者同士は孫の香と息子の光を接着点として手を握るのに多くの時間を要さなかった。
光にとって、父親の憲一は憧れ尊敬の対象であり絶対的存在であった。子どものころから父親に逆らったことなど一度としてない。そして今度も・・・・・
憲一の希望は常に決定であり、示す提案は確定以外の何物でもない。彩と別れて香と結婚することのみが光の歩く唯一の人生となった。
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