第11話 新たな芽生え
「この馬鹿者がっ。よりによって敵の倅と一緒になりたいだと。何のために今まで育ててきたと思っておるんだ!」
烈火のごとく一喝された。
直前での選挙区変更であったが党総務会長という要職にありながら一敗地にまみれた恥辱は大きい。比例で当選したとはいえ選挙戦では激戦の上ではあったが初めて経験した屈辱的な敗戦であった。
普段は優しい父の激昂に、光との結婚を相談した彩は泣き崩れた。
何度も親の目を隠れて2人は逢っていた。いや親は当然知ってはいたが。別れるための手続きには多少の接触はやむを得ない、目をつむろう。ただそれだけの理由である。
秘密があった。誰にも言えない2人だけの秘密であった。2人を繋ぐ新たな芽生えは光と彩だけの秘密である。光も彩も共に父親には話せなかった。許されるはずがない仲であった。
駆け落ちしようか、国内ではどこに行っても見つけ出される。海外は?どちらの父親でも空港でストップさせる権力を使用するだろう。日一日と光の結婚式の日取りが近づいてくる。彩の中では新しい命が確実に育ちつつあった。
影2491は彩という生を溺愛していた。影と生が同体となり生としての寿命を全うするのは本来の影としての責ではある。
影は自分が宿る生を愛し共に寿命を生きていくのであるが、影2491の生への執着は異常なほどであった。
生は肉の単なる鎧に感情的自主活動を行うための信号を発する感情を注入しただけのものである。
そして影は単に修行の使役として生に宿る。
影2491は彩が胎内に新たな芽生えを抱いたとき、何としても新たな生を誕生させたいと願った。新たな芽生えは生である母胎から胎出したとき初めて新たな生となり、闇の囁きにより影と同体する。
影2491は新たな生の誕生の感動を経験したかった。かって彩より以前の生と同体であったときにその経験は既にしたかもしれない。しかし生と同体する時において以前の全ての過去の認識は消去される。
影2491は彩と光との共同作成物である新生の誕生を実現すると決意した。
影1942は悩んでいた。彩という生を愛していた。彩と結ばれ光の生を全うするつもりでいた。彩との間に新たな生を造り彩との幸せな一生を送る予定であった。憲一の反対があるまでは。
『愛している』と発した言霊は影1942の魂の真実の叫びであった。そして求め合う魂が両家の父親の強い反対により反発的に刺激され、『絶対別れない』という言霊さえも発した。
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