第9話 天下盗りの夢
光と彩は恋人同士であった。光は近隣3市の1人区を地盤とする国会議員を父に持つ。もう既に当選回数も5回を数える。
国会与党である保守政党の幹事長補佐を務めるやり手であり、大臣の声も聞こえてきた実力者である。
常に一人勝ちの選挙を続けていたが前回の選挙は激戦であった。2位との接戦を制しての議席の確保であった。
相手は国政を二分する新生保守系政党の総務会長を務める実力者であるが、政党間の党利党略により選挙区を変更し落下傘降下してきた。
光の父親憲一は齢48を数える。憲一は祖父の代からの代議士であり、祖父も国会議員を務めている。大学卒業後、奉職した官僚を5年後には退職し、祖父の秘書を務めていた。
国会議員として将来を期待されていた祖父は56歳で早すぎる人生の終焉を迎えた。憲一31歳の冬であった。祖父の地盤を継いで選挙が行われ、若くして議席に就いたのであった。
憲一は優秀であった。天才と呼ばれた幼少期を経て国立大学を卒業し、エリート官僚、祖父の秘書を経て政治家となったが、光は優秀というほどではなかった。
光は、小中高では目立つこともなく大学も平凡な私大を卒業していた。しかしなぜか友達が多く、常に回りには大勢の人が集まる。
腕力自慢ではないし、父親の威光というわけでもない。いつの間にか人が集まり、仲間たちの中心にいるリーダーとなっていた。
政治家に求められるもの、それは一般的には政策形成能力ではあるが、その政治家のトップとなる者は所謂カリスマ性が不可欠である。憲一は早くから光の人を引き寄せる能力に気づき着目していた。
『こいつは、いつかトップを摂る』
最大与党の政調会長を務めた祖父も野心家であった。酒を飲む度に国盗りを広言していた。今、憲一の目の前には主要大臣の椅子か次を待つ幹事長が約束されていた。
大臣の椅子はいらん。次を待つ幹事長ポストこそが自分のためにあると確信していた。自分が目前としている国盗りを継ぐものが一族には必要である。永きにわたり国を独占した一族のように。
光にも自分と同じ資質がある。自分が天下を盗り、光が天下を摂る、それが自分に与えられた人生なのだ。光には自由と求めるものは何でも与えよう。大学を卒業するまでは。
大学卒業後は自分の秘書として修行させ国盗りに備える。それが自分の息子に生まれた光の人生なのだ。
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