第4話 神隠し

 影4219は罪の扉を通り、さらに暗い闇の中を進む。重罰を覚悟の上で長老の次男とを結ぶ黒き糸を切ったのは自らの意思である。別離の重罰は何であるかは知らないが重く淀む闇の中をただ進む。


 闇の中に巨大な壁がそそり断つ。壁の前には黒々と流れる大きな河が横たわっている。吸い寄せられるがごとく壁をめざし河に入っていく。やがて影4219は河の中に消えた。


 次男は異常であった。真面目で清廉なイメージの仮面の下に、幼児の苦しむ様を楽しむ性癖を隠していた。


 町では今年に入って既に幼児3人の行方が不明のままであり『神隠し』として小さな町を恐怖の影が覆っている。町内3つの小学校では集団登下校や父母の送迎を行い、これ以上の『神隠し』の拡がりに恐怖している。


 前町長は古き先祖の代からの大地主である。町内には縁者はいない。邸宅を囲む広大な森の他にも大小様々な山や森なども所有している。神隠しにあった子どもたちは山や森に入り足跡を消していた。


 山に遊びに行った子は、古い洞穴の底と大きな岩影の暗い土の下に眠る。森に迷いこんだ子は光を通さぬ奥深く枯葉の下で覚めない夢を見る。息絶えるまでの苦しむ顔を楽しむ異常者のために。


 2歳違いの長男は小学校、中学校の9年すべてをトップで過ごした。長男は、町外の進学高校に進み有名大学を卒業後、現在県庁の部長を勤めている。


 次男は兄に比べ成績は悪く、常に優秀な兄の影に隠れていたが、身体が弱いのを理由に三流大学を卒業後家で何不自由なく暮らしていた。


 父親の前町長は自慢の長男だけに期待をかけ次男の自主的な自立を諦めていた。次男はそのうち自分の顔と資金にものを言わせて町議会議員にでも押し込むつもりでいた。


 前町長は経済的にも社会的にもまったく困らない資産家であり権力者であることから次男は自由にさせていた。普段は2階の自室に籠りビデオを一日中見ている。


 1階に顔を出すのは、夜食の時だけであり、朝は自室に軽食を運ばせていた。雨の日を除き10時なると決まったように外出する。出かける先は父親所有の山や森である。


 子どものころから昆虫の研究や採集を行っているが、決して昆虫が好きというのではない。虫を殺しピンで刺すことが好きであった。


 「小さな生き物が大好きなのね。明は本当に優しい子ね」


 3年前に他界した母親は読書や音楽を好む文学的な人物であった。そのせいか、やんちゃで暴れん坊な長男よりも、物静かで野山で虫を追いかける次男を溺愛していた。

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