第35話 未開の島 ガダルカナル
1942年3月1日
ラバウル攻略戦に失敗した米海軍が、再び動き出したのは3月1日の事であった。
ウィリアム・ハルゼー少将率いるTF16(第16任務部隊)――ヨークタウン級空母3隻を基幹とした部隊は、ソロモン諸島のサンクリストバル島の南側を突き抜け、のちに名前が世界中に知られることになるが、今はまだ未開の島――ガダルカナル島を視界に収めていた。
3隻の正規空母の周りには、巡洋艦2隻、防空軽巡2隻、駆逐艦20隻が英潜水艦の出現に目を光らしており、ガダルカナル島の海岸線にはおびただしい数の輸送船が横付けされていた。
ガダルカナル島攻略に投入される戦力は、昨年11月のラバウル攻略に使われるはずだった海兵隊師団4万が転用されており、この師団を支える軍用車両、弾薬、食料、補給物資などが次々に陸揚げされつつあった。
「『ガダルカナル』という地名を貴官は知っていたか? 知っていたら相当な地理マニアどと思うが」
「答えはノーです、ハルゼー司令官。ガダルカナル島には原住民しか住んでおらず、この戦争さえ起こらなければ文明とふれ合うことすらなかった島でしょう」
ハルゼーの質問に、TF16旗艦「エンタープライズ」艦長ウィルソン・ブラウン大佐は答え、ブラウンは改訂されたラバウル攻略作戦――作戦名「
「
1段階目
ソロモン諸島のガダルカナル島、ニュージョージア島、イサベル島、チョイセル島の4島を占領し、そこにB17、A20を中心とした重爆部隊を進出させる。
2段階目
重爆部隊でラバウルの英空軍を叩き、その戦力を大幅に弱体化させる。
3段階目
弱体化したラバウルの英空軍に対し、機動部隊をぶつけ、これを打ち破り、ラバウルに陸軍部隊を上陸させ占領する。
「事前情報によると、ガダルカナル島には英陸軍の部隊は配置されていないとの事でした。占領作戦自体はすぐに終わるでしょう。問題はこのことをいつまで英軍に隠し通す事が出来るかですな」
TF16参謀長マイルズ・ブローニング大佐が私見を述べた。
「ブローニング参謀長のおっしゃる通りです。早期に英軍にこのことを勘づかれた場合、英軍は長距離爆撃、潜水艦による輸送船の撃沈などのあらゆる手段を用いて、ガダルカナル島の飛行場建設を妨害してくるはずです」
「そうならないために、輸送船団にTF16が帯同し、ハワイには『レキシントン』『ワスプ』から成るTF17が控えているのだ。多数のF4F、ドーントレスでガダルカナル島の上空を固めれば英軍の航空機、潜水艦など近寄らせるのもではあるまい」
ハルゼーが強気に言い張った。昨年11月にラバウル攻略戦に失敗し、膝下空母の1隻「レンジャー」を喪失してからというものの、ハルゼーは復讐の機会をずっと伺っていたのだ。
――ガダルカナル島の占領作業はブローニングの予想通り短期間で終わり、「エンタープライズ」に海兵隊指揮官から電話がかかってきたのは2日後の夜の話であった。
「ガダルカナル島の占領完了。事前報告通り島に英軍が展開していることはなく、原住民しか住んでいませんでした。部隊の中の死者は0人、負傷者が数名出たのみでした」
指揮官の声が電話越しに聞こえ、海兵隊の苦労を労ったハルゼーは何個かの質問を投げかけた。
「ガダルカナルに飛行場を作れるような場所はあったか?」
「はい。小官も実際に見るまでは半信半疑でしたが、密林に囲まれた場所に平坦な草原が存在していました。広さもかなりのものだったので、重爆部隊が展開出来る立派な飛行場が建設出来ると思います」
「飛行場は何日で出来る?」
「設営隊の隊長からさっき聞いたのですが、戦闘機や単発爆撃機が離着陸できる程度の滑走路、付帯設備ならば1週間程度、B17のような重たい機体が運用できるレベルの滑走路、付帯設備ならば3週間程度かかるとの事でした・・・・・・」
「分かった。サンキュー」
ハルゼーは電話を切り、話していた内容をブローニングを始めとするTF16の幕僚と共有した。
「成程。飛行場完成まで1週間、B17が運用出来るようになるまで3週間ですか。当初、TF16がソロモン諸島に展開するのは予定では2週間となっていましたが、予定が大幅に伸びてしまう場合もありそうですな」
「航空部隊の展開に時間がかかるとなると、英海軍の存在が気がかりです。開戦前にラバウルに展開していた英戦艦6隻の内、2隻はラバウル沖海戦で沈没し、損傷が大きい2隻はシンガポールに後退しましたが、英本土から3隻前後の戦艦、巡戦が回航されたとの情報がありますから」
「そこら辺の対応は後から考えていこう。我が軍が建造しようとしているガダルカナルの飛行場が敵戦艦の巨弾に蹂躙されるなどあってはならない事だからな・・・」
ハルゼーは最後にそう言ったのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――次の戦場はソロモン諸島です。英日航空部隊の奮戦をお楽しみください。
霊凰より
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