第3章 2度目の日英同盟
第34話 同盟締結
1942年2月19日
日本国外務大臣松岡洋右と駐英日本大使重光葵の到着を、大英帝国外務大臣アンソニー・イーデンはこれでもかと言わんばかりの上機嫌で迎えた。
リッベントロップの予言通り、ドイツではヒトラーが失脚後に原因不明の急死を遂げ、政変が起こり、世界情勢全体が大混乱する中での2人の訪問であった。
「かつて、我が国(日本)は明治35年に貴国(英国)と盟を結び、あのロシア帝国と戦うという道を選びました。この同盟は歴史上類を見ない程極めて有効に機能し、我が国はロシア帝国に対し、偉大なる勝利を得ることが出来ました」
「その後の不幸な行き違いにより、同盟は一時消滅してしまいましたが、その同盟が今日をもって復活することとなり、私は喜びの念に堪えません」
「私もミスター・マツオカと同じ思いです。先の同盟では、我が国は諜報活動、ロシア海軍へのサボタージュ、戦費調達などの面で貴国を側面援助する形を取り、その結果はミスター・マツオカがおっしゃった通りのものとなりました」
「しかし、新たな同盟関係は先の同盟のものとは、その性格が決定的に異なります。英国と日本は米国に対し、共に手を携えて挑む戦友となるのです」
松岡の言葉に対し、イーデンは笑顔で言葉を返した。
米国が英国、そして日本に宣戦布告して以来、英国と日本は個別に米国と対峙する関係性が4ヶ月程続いていたが、この状況は今日を持って終結を迎える。
これから松岡とイーデンが式場に移動し、日英同盟の調印式が行われる手筈となっていた。
「同盟締結のために奔走した2ヶ月半はあっという間でしたな」
イーデンはこの2ヶ月半の英日の外交交渉の動きに思いを馳せた。
松岡と重光が、英国との同盟締結に必要な諸条件について、英国政府との交渉に入ったのは昨年の暮れの話であった。
英国も日本との同盟の有益さを十二分に理解しており、両国の中に外交的なしこりも存在していなかった事から、同盟は2~3週間以内にまとめられ、即座に締結されるものとイーデンは考えていた。
だが、日本の技術力及び、日本軍の実力は全く大した事がないと主張する勢力も英国内にはおり、同盟交渉はイーデンの予想よりも遙かに難航したものとなった。
結局、同盟文章の全文が完成したのは、同盟交渉開始から2ヶ月以上経過した頃であり、内容も当初予定されていたものから大分変更されたものになった。
「貴国のご厚意には日本政府を代表して感謝申し上げます」
松岡がイーデンに頭を下げ、重光もそれに倣った。
松岡が言う「ご厚意」とは、日英同盟の復活に伴って新たに締結される「日英技術・人材交流協定」の事だった。
英国は日本よりも優れたレーダー技術、各種航空機エンジン、無線電話機、対潜設備、高角砲、対空機銃、戦車、装甲車などを持っており、それらの供与について英国が同意したのだ。
この協定では、日本からも酸素魚雷の技術や46センチ主砲の技術、空母「蒼龍」「隼鷹」などの設計図面を提供することになっているが、明らかに日本側に優位な協定であった。
「感謝の言葉など不要です。英日両国が対峙する相手はかつてのロシア帝国など比較にもならないような米国という世界最大最強の国家です。そうである以上、日本及び日本軍には今とは比べものにならない位強くなって貰わなければなりませんから」
笑いながら言ったイーデンに対し、重光が納得したように頷いた。
「成程。確かにイーデン閣下の言うとおりですな。この戦争は恐らく太平洋の島々を取り合うだけの単純な戦いには終始せず、戦火は瞬く間に拡大してゆく事となるでしょう。それに備えるためにも我が国はもっと強くなる必要があります」
松岡もイーデンの考えに納得したのだろう、頷きながら呟いた。
「ひとつ申し上げておく事があるとすれば、私個人としては貴国が供与する技術は、我が国のそれに決して劣っているとは考えていません。貴国が開発した酸素魚雷という従来の兵器とは一線を画した兵器は、潜水艦の装備として極めて魅力的なものです。この酸素魚雷に英独停戦で手に入れたUボートを組み合わせれば相当な活躍が出来ると私は考えています」
イーデンは私見を述べ、日英同盟の調印式の時間がやってきた。
3人はそれぞれの随員と共に式場に移動し、壇上に立った松岡とイーデンが同盟文章に1ページずつサインを書き込んでゆく。
同盟締結の式に参加していた大英帝国首相ウィンストン・チャーチルが演説を始め、式に参加していた全ての人物が聞き入った。
「大英帝国の偉大なる臣民の皆様、そして日本国民の皆様に非常に喜ばしい報告があります。我が国と東洋の強国日本は本日、1942年2月19日を持って正式に軍事同盟を締結する運びとなりました。
(途中割愛)
大英帝国の誇り高き勇者達、そして日本の勇気と覇気に満ちあふれたサムライ達に神のご加護があらんことを!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――日英同盟締結――!!!
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