第31話 フィリピン戦の顛末

1941年11月、12月



 11月22日、23日の航空戦で第1航空艦隊がフィリピン・ルソン島の米軍航空兵力を撃滅した後、フィリピン攻略戦は加速度的に進行していった。


 まず、帝国陸軍第14軍が12月8日に離島のバタン島、10日にルソン島北端のアパリとビガン、そして12日にルソン島の南端のレガスピーにそれぞれ上陸し、クラークフィールド飛行場を始めとする主要飛行場数カ所を確保することに成功した。


 クラークフィールド飛行場やマバラカット飛行場には米軍が破壊しそこねたB17やF4Fが十数機残されており、それらの機体は研究と分析のために内地に送られた。


 一方、アメリカ極東軍の最高司令官ダグラス・マッカーサー少将は、迫り来る日本軍に対し、バターン半島とコレヒドール島に立て籠もる決断を下しており、部隊は即座に移動を開始した。


 第14軍は翌年1月からバターン半島とコレヒドール島の攻略にかかり、日本軍が苦戦する場面もあったものの、5月までにはアメリカ極東軍は大半が降伏し、フィリピン攻略戦は完結したのだった。



 佐世保海軍工廠のドックに、飛行甲板、水線下の両方を痛めつけられた巨艦が、身を休めていた。


 飛行甲板には3つの大穴が穿たれており、被弾後の消火作業にも非常に手間取ったのだろう、黒く焼け焦げている部分が大半を占めいていた。


 格納庫内の様子もまた悲惨であった。被弾時に粉砕された零戦、99艦爆の残骸は既にあらかた撤去されていたが、艦上機用のエレベーターの骨格部分が大きく歪んでしまっており、この修理だけでも2ヶ月はかかりそうであった。


 水線下2カ所の大穴から流入した1000トンもの海水は、排水社業が始まっており、多数の工員が冷たい海水相手に奮闘していた。


 電路のチェックにも抜かりがない。被弾、被雷時に断裂してしまった電線は数十カ所を数えるが、張り付いた工員が1つずつ修理を開始していた。


 航空母艦「蒼龍」――11月22日の航空戦に参加した空母の姿がそこにはあった。


 「蒼龍」が長期のドック入りを余儀なくされる中、「蒼龍」「飛龍」の2隻で編成されている第2航空戦隊は、その司令部を「蒼龍」から「飛龍」に移していた。


「今回のフィリピン航空戦で得た戦訓は主なものだけでも3つありました」


 2航戦司令部で持たれた会議の冒頭、首席参謀伊藤静六中佐が口を開いた。


「航空機の絶対数の不足、航空機の防弾装甲の不足、艦隊の対空砲火の不足かね?」


 2航戦司令官山口多聞少将が自身の考えを述べた。航空通で知られる山口にはフィリピン航空戦を通して思うところがあったのだろう。


 伊藤が頷いた。


「まず、この第1航空艦隊を臨時の艦隊ではなく、建制化した艦隊に格上げすべきですな。作戦の度に他部隊から護衛艦艇を借りているようではこれからの作戦が思いやられます」


 航空参謀の鈴木栄二郎中佐が意見を述べ、「飛龍」艦長加来止男大佐がその通りと言わんばかりに同調した。


「我が帝国海軍には1航艦の正規空母6隻の他にも『瑞鳳』『祥鳳』や『龍驤』、そして近々竣工する改装中型空母『隼鷹』といった空母がある。それらを1航艦に配属することで、航空機の絶対数の不足はある程度補うことが出来ると考えています」


 予め解決案を考えていたのだろう、伊藤が艦隊表をちらっと見やった。


「・・・となると、残りの2つが問題ですな。航空機の防弾装甲の不足も、艦隊の対空砲火の不足も直ぐには抜本的に解決することはできませんから」


 鈴木が言った。


「航空機の防弾装甲に関しては、南雲司令長官を通して艦政本部の方に意見を回してみよう。艦上機――とりわけ零戦の防弾装甲の弱さは、搭載している中島『栄』エンジンの非力さに起因しているとの予想が立つ。そこら辺は上手くいけば改善のメドが立つだろう」


「対空砲火に関しては私が引き受けます。各工廠の役人と意見交換を行えば、良い案が出てくるかもしれません」


 山口と加来がそれぞれの問題を引き受けた。


「次の作戦は何処を攻めることになるかな?」


 山口が話を切り替えた。


「現在、太平洋には我が国対米国、英国対米国という2つの構図が存在しています。・・・ということは・・・?」


 伊藤は自分の意見がまとめられないようであった。


「・・・まさか、日英同盟ですか?」


 海図を睨み付けていた加来が呟き、参謀の何人かが驚愕の表情を浮かべた。


「そうだろうな・・・。いや、間違いないだろう」


 山口は既に確信していた。間違いなくこの後、日本は英国と同盟を結び、米国という桁違いに巨大な国家と対峙してゆくことになると・・・


 そして、この山口の考えは、程なくして現実のものになるのだった・・・


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

これでフィリピン航空戦決着です。


次回から場面がヨーロッパに移るので、楽しみにしていてください。


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3月28日 霊凰より































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