第25話 フィリピン航空戦②

1941年11月22日


 日本軍の第2次攻撃隊167機――零戦35機、99艦爆78機、97艦攻54機の総指揮官嶋崎重和少佐は眼前に立ち塞がるF4Fの多さに目を見張った。


「第1次攻撃隊が相当数の被撃墜機を出していたが、これが原因だったか・・・」


 嶋崎は呟いた。第2次攻撃隊は進撃途中に投弾し終えた第1次攻撃隊とすれ違っており、敗残兵を思わせる第1次攻撃隊の姿に嶋崎はかなりの衝撃を受けていた。


 嶋崎は知る由もなかったが、この時、クラークフィールド飛行場上空には89機のF4Fが攻撃隊を待ち受けており、その数は零戦隊の2倍を優に超えている数であった。


 零戦隊に配属されているパイロットは飛行時間1000時間を超えているベテランばっかりだったが、このベテラン達であっても、2倍以上のF4Fを相手取る戦いは楽ではないはずであった。


 「蒼龍」艦戦隊長飯田房太大尉が乗る零戦がバンクし、9機の零戦がF4Fに果敢に挑みかかっていった。零戦の動きに気づいたF4Fも上昇を開始し、空戦が始まろうとしていた。


 零戦から放たれる20ミリ弾、7.7ミリ弾と、F4Fから放たれた12.7ミリ弾の火箭が交錯し、被弾したF4F2機が立て続けに火を噴き、墜落していった。


 被弾したF4Fが視界から消えた時には、「赤城」「加賀」の艦戦隊も動き出しており、彼我入り乱れての空中戦が始まった。


 12.7ミリ弾に弾倉を直撃された零戦1機が誘爆によって自らの機体を引きちぎられ、20ミリ弾に胴体を切り刻まれたF4Fもまた黒煙を噴き出しながら墜落してゆく。


 零戦隊は全てのF4Fを防ぎきる事は出来ず、10機以上のF4Fが艦爆隊、艦攻隊に迫ってきた。


 編隊の左を占位していた「飛龍」艦爆隊に所属する99艦爆が機首に2丁装備されている7.7ミリ機銃を用いて対空射撃を開始する。


 大量の機銃弾が地吹雪さながらの勢いでF4Fに迫り、F4Fなど片っ端から墜とせるのではないかと錯覚するが、嶋崎の期待に反し、墜落するF4Fは1機もいなかった。


 F4Fは機影に見合わない俊敏な動きで火箭をかいくぐり、F4Fから放たれた赤い曳痕が99艦爆1機の右エンジンに吸い込まれた。エンジンに一撃を喰らった99艦爆は、推進力を即座に喪失し、編隊から落伍していった。


「・・・!!!」


 嶋崎は味方機の防御力の貧弱さを確信した。米海軍のドーントレスやアベンジャーといった機体は防御力に定評があり、多数の機銃弾を喰らっても中々墜落まで至らないとの情報だったが、99艦爆は1撃を喰らっただけでいとも容易く墜落してしまうのだ。


 このような機体を使い続けていれば、ベテランパイロットなど早晩枯渇してしまうだろうと・・・


 最初の99艦爆が落伍した時、他の99艦爆や97艦攻も敵機に取り付かれており、射弾を浴びせられていた。


 97艦攻1機のプロペラに敵弾が命中し、プロペラが吹き飛ばされる。その99艦爆は次の瞬間、奇妙な音を発しながら墜落していった。


 97艦攻1機の旋回機銃が一瞬にして沈黙する。ブローニング機銃から放たれた12.7ミリ弾が電信員を殺傷したのだ。


 その後も被弾機が多発し、99艦爆9機、97艦攻に至っては14機が失われた所で、攻撃目標のクラークフィールド飛行場が見えてきた。


 第2次攻撃隊は当初違う飛行場を攻撃する予定であったが、第1次攻撃隊がクラークフィールド飛行場を完全に使用不能に陥れるのに失敗したということで、第2次攻撃隊もクラークフィールド飛行場を攻撃する運びとなったのだ。


「突撃体勢作れ!」


 嶋崎機の電信員を務めている遠藤多作2飛曹が電信板を叩き、攻撃機が空母単位で錘型を形成する。


 第1次攻撃隊の投弾を生き残った機銃座が対空射撃を開始し、味方撃ちを恐れたF4Fが次々に戦場外へと離脱してゆく。


 「加賀」隊の99艦爆1機、「瑞鶴」隊の97艦攻1機が対空砲弾の破片によって機体を傷つけられ墜落していったが、嶋崎が直率する「瑞鶴」第1中隊は飛行場の中でも一番の大物――数百機の機体を飛ばすことができるであろう燃料を満載している燃料タンク目がけて投弾を開始していた。


 嶋崎機から投下された250キロ爆弾が燃料タンクの外殻を木っ端微塵にした――その直後、真っ黒な液体が噴水さもありなんの勢いで噴出してきた。


「よし!!!」


 嶋崎は自機が上げた戦果に満足感を覚え、中隊の99艦爆の投弾を見守っていた。


 1機の99艦爆が燃料タンク横に停車してあった燃料車をめざとく発見し、投弾する。直撃を受けた燃料車はたまらんとばかりに真っ赤な火焔に覆い隠された。


 投弾を終えた中隊の残存機を引き連れ、機体を上昇させた嶋崎はクラークフィールド飛行場の完全破壊に成功したことを確信した。第2次攻撃隊は第1次攻撃隊同様、多数の被撃墜機を出したものの、作戦目的を達成すること自体には成功したのだ。


 あとは、帰路を狙う敵戦闘機に注意しつつ母艦に帰投するだけだった。





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