第24話 フィリピン航空戦①
1941年11月22日
計183機に及ぶ日本軍の第1次攻撃隊が飛来した時、上空には84機のF4Fが待ち構えており、84人の米軍パイロットは獲物を喰い千切らんとする肉食獣の目で前方を睨み付けていた。
「『チームX』は戦闘機隊、『チームY』と『チームZ』で攻撃機をやるぞ! 全機分かったか!!」
「「「イエッサー」」」
F4F84機の総指揮を任されているジョージ・A・デイビス少佐は目標の振り分けを行い、部下達の同意の声が次々にレシーバーに飛び込んできた。
「ジャップの編隊が乱れてるぜ!」
「こっちの戦闘機の多さにびびっちまっているんだろう!」
部下の数名が敵編隊の僅かな動きの変化をめざとく発見したらしい。デイビスが注意深く敵編隊を観察してみると、確かに敵編隊の動きは徐々に乱れ始めているようであった。
「全機突撃せよ!」
デイビスはレシーバーに叫び、デイビス自身は「チームX」を直率し、エンジン・スロットルをフルに開いた。
ジョセフ・M・マコーネル大尉が指揮する「チームY」は左旋回をかけ、ジェームズ・ジャバラ大尉が指揮する「チームZ」は右旋回をかけ、こちらも突撃を開始する。
敵編隊から20機程度の戦闘機――恐らく「ゼロ」と思わしき機体が「チームX」に挑んできた。
デイビスは飛行長から聞かされていた「高速力・重武力だが、防御力皆無」という「ゼロ」の特徴を思い出しつつ、1機の「ゼロ」に狙いを定めた。
F4Fと「ゼロ」が1000キロ近い相対速度で接近し、互いの両翼に発射炎が閃いたタイミングはほぼ同時であった。
槍さながらの7.7ミリ機銃弾がデイビス機に殺到し、何発かは命中したが、F4Fは墜落するどころかぐらつきすらしなかった。
逆に12.7ミリ弾を被弾した「ゼロ」は、エンジン部から盛大に黒煙を噴き出しながら墜落していった。
僚機の被弾を見た別の「ゼロ」が仇討ちと言わんばかりにデイビス機に機首を向けてきた。
「サッチ・ウィーブだ! フォース!」
デイビスは小隊2番機のエドワード・フォース少尉に呼びかけ、「サッチ・ウィーブ」と呼ばれる戦法を実施した。デイビスが「ゼロ」の注意を引きつけている間に、フォースがその「ゼロ」を撃墜するといった要領である。
デイビスが機体を僅かに降下させ、目論見通り「ゼロ」がデイビス機の動きに食いついてきた。
「オーケー! 今だフォース!」
後ろに回り込んだフォース機が機銃弾を発射し、数発が「ゼロ」に命中した。
「よし!」
バックミラー越しに「ゼロ」の被弾を確認したデイビスは拳を握りしめたが、その被弾した「ゼロ」の動きはデイビスの予想を遙かに超えていた。
「ゼロ」はよろめきながらも機体のバランスを取り、フォース機に激突したのだ。
「・・・!!!」
衝撃的な光景にデイビスは束の間、言葉を失った。「ゼロ」のパイロットが帰還不能と見てフォース機に激突したのか、それとも偶然なのかは分からなかったが、ショックな光景であることは確かであった。
だが、デイビスは隊長の責務を果たすべく、直ぐに気持ちを切り替え、機体を上昇させ、空戦の様子を見渡した。
「チームX」のF4Fと「ゼロ」が蒼空を縦横無尽に飛び回りながら、銃火を交わしていた。
若年パイロットが操るF4Fには、真っ正面から「ゼロ」に勝負を挑む機もいた。
F4Fのずんぐりむっくりとした機体が「ゼロ」を肉迫にし、ブローニング機銃から放たれた12.7ミリ機銃弾が「ゼロ」に殺到するが、それらは玄人が操る「ゼロ」に悉く回避され、反撃の20ミリ弾を胴体にぶち込まれる。
「ゼロ」得意の格闘戦に持ち込まれ、手もなく撃墜されるF4Fや、威力の乏しい7.7ミリ機銃弾が不運にもコックピットに命中してしまうF4Fもある。
片翼に12.7ミリ機銃弾がまとめて命中し、翼が引きちぎられ、独楽のように回転しながら墜落していく「ゼロ」もあった。
「チームX」と「ゼロ」の戦いは数の優位を確保している米側が明らかに優勢であり、黒煙を噴き出しながら墜落してゆく機体は「ゼロ」の方が多かった。
「チームY」「チームZ」のF4Fは敵編隊の後方に控えていた攻撃機に取り付いており、機銃弾を叩き込まれた99艦爆(ヴァル)、97艦攻(ケイト)が1機、また1機と編隊から落伍してゆく。
「おっと!!!」
デイビスは下から追いすがってくる「ゼロ」の姿を認めた。デイビス機の尾部には隊長機であることを示す横線が引かれているため、数あるF4Fの内、デイビス機にわざわざ狙いを定めてきたのだろう。
デイビスは咄嗟に、操縦桿を右に倒し、下から突き上げてくる機銃弾の奔流がデイビス機の直ぐ側をかすめていった。
上に突き抜けていった「ゼロ」がデイビス機にもう1連射仕掛けてきたが、それも躱し、高度が下がった所を見計らってデイビスは12.7ミリ機銃の発射ボタンを押し込んだ。
12.7ミリ弾を被弾した「ゼロ」はデイビスの視界から消えてゆき、日本軍の第1次攻撃隊がクラークフィールド飛行場に投弾を始めたのだった。
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