第15話 灼熱の12戦艦①
1941年11月20日
「全軍突撃せよ。ロイヤル・ネイビーに栄光あれ」の命令電がS部隊旗艦「プリンス・オブ・ウェールズ」から発せられたのは、S部隊とT部隊が合流した直後であった。
合流した2部隊は既に陣形を組み直している。
中央に主力の戦艦6隻――「プリンス・オブ・ウェールズ」「フッド」「ネルソン」「ロドネー」「ウォースパイト」「バーラム」を配し、その右舷側をS部隊の巡洋艦、駆逐艦が固め、その左舷側をT部隊の巡洋艦、駆逐艦が固めている。
「観測機より入電!」
「プリンス・オブ・ウェールズ」の艦橋に、報告が届けられた。
「『新たに現れた敵艦隊の陣容は戦艦6隻、巡洋艦8隻、駆逐艦多数。戦艦の1、2、3、4番艦はコロラド級戦艦なれど、5、6番艦は艦級識別リストに該当なし。新鋭戦艦と予想される』との事です」
「40センチ砲8門搭載のコロラド級戦艦が4隻、そして未知の新鋭戦艦が2隻か・・・。ちと骨が折れる戦いになりそうだな」
司令長官ジェームズ・ソマーヴィル大将は、顎を触りながら思案顔になった。
「司令長官。戦艦の数は互角ですが、敵艦隊の巡洋艦は重巡、軽巡合わせて8隻との事ですので、我が方が50パーセント優勢です。この数の優位を生かして敵戦艦5番艦、6番艦に雷撃を仕掛けてはいかがでしょうか?」
首席参謀サイモン・ヘイワーズ大佐が進言し、何人かの参謀が頷いた。
こうしている間にも、彼我の距離は見る見るうちに縮んできているため、ソマーヴィルは素早く断を下した。
「全部隊宛て打電せよ。『プリンス・オブ・ウェールズ』目標敵戦艦1番艦、『フッド』目標敵戦艦2番艦、『ネルソン』目標敵戦艦3番艦、『ロドネー』目標敵戦艦4番艦、『ウォースパイト』目標敵戦艦5番艦、『バーラム』目標敵戦艦6番艦。S部隊の巡洋艦、駆逐艦は敵巡洋艦、駆逐艦の牽制せよ。T部隊の巡洋艦、駆逐艦は敵戦艦5、6番艦に雷撃を敢行せよ」
「敵艦隊転舵! 方位270度!」
「面舵一杯!」
「プリンス・オブ・ウェールズ」艦長ジョン・リーチ大佐が、操舵室に下令する。
約1分後、「プリンス・オブ・ウェールズ」の艦首が右に振られ、「フッド」以下の5戦艦も「プリンス・オブ・ウェールズ」の動きに追随する。
向こう側の空域からアメリカ海軍の主力戦闘機F4F、ドーントレスが姿を現した。只今の時刻は午後6時を回った所であり、もう少しで日が暮れる時間となっていたが、敵機動部隊の司令官は無理を押して航空機を派遣したのだろう。
「観測機は全機退避せよ」
敵機の出現を認めたソマーヴィルは観測機の退避を命じた。
観測機による弾着観測がなくなる分、こっち側が命中率で不利になるのは否めなかったが、観測機のクルーを守るためには仕方がない処置であった。
「巡洋艦、駆逐艦突撃開始します!」
見張り員からの報告が上がってくる。S・2部隊の重巡「ヨーク」「エグゼター」が先陣を切り、その後ろにS・3部隊の「サウサンプトン」「グラスゴー」「ニューカッスル」「シェフィールド」が続く。
「目標敵1番艦。準備出来次第砲撃開始だ」
リーチが、砲術長に命じた。
「プリンス・オブ・ウェールズ」に装備されている36センチ4連装主砲2基、同連装主砲1基が一斉に旋回を始め、砲身の仰角が小刻みに変化する。
ほどなくして、「プリンス・オブ・ウェールズ」の3基の主砲から3発の36センチ砲弾が敵1番艦目がけて放たれた。主砲発射の衝撃がソマーヴィルの体のみならず、基準排水量4万トン越えの艦体をも大きく揺さぶった。
「『フッド』撃ち方始めました!」
「『ネルソン』撃ち方始めました!」
「『ロドネー』撃ち方始めました!」
「『ウォースパイト』撃ち方始めました!」
「『バーラム』撃ち方始めました!」
戦艦部隊が次々に砲撃を開始し、敵戦艦も順次砲撃を開始する。
数多の36センチ砲弾、40センチ砲弾が空中で交錯し、敵弾の飛翔音が急速に近づいてきた。
飛翔音は「プリンス・オブ・ウェールズ」の頭上を飛び抜け、右舷側に4本の水柱が奔騰した。
「プリンス・オブ・ウェールズ」が放った第1射も同じく敵1番艦を捉える事はなく、「プリンス・オブ・ウェールズ」は第2射を放つ。
発射の反動が艦体を揺るがし、数十秒後、敵の新たな砲弾が「プリンス・オブ・ウェールズ」に向かって飛翔してくる。
今度の着弾も3発までは見当違いの場所に着弾したが、1発が「プリンス・オブ・ウェールズ」の艦尾付近を通過していった。
「舵に異常はないか!?」
リーチは操舵室を呼び出した。この砲戦の序盤で舵が故障するなどあってはならなかったが、何となくいやな予感がしたのだ。
「航海長より艦長。舵健在です!」
航海長から即座にリーチを安堵させる返答が届き、お返しと言わんばかりに「プリンス・オブ・ウェールズ」が第3射を放った。
各砲塔の3番砲から火焔が湧きだし、重量1トン越えの砲弾が敵1番艦に向かっていく。
「命中!」
「プリンス・オブ・ウェールズ」の第3射が着弾した時、敵1番艦の艦上に爆炎が湧き出した。
ソマーヴィルは「プリンス・オブ・ウェールズ」が敵1番艦に対し先手を取った事を悟り、拳を握りしめたのだった。
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