第16話 灼熱の12戦艦②

1941年11月20日


 イギリス戦艦部隊の4番艦「ロドネー」は、第5射で敵4番艦に対し命中弾を得る事に成功していた。


「砲術より艦長。次より斉射に移行!」


「了解!」


 「ロドネー」砲術長ジョージ・マクエロイ中佐の報告に、艦長ルネ・フォンク大佐は短く返答した。


 主砲弾装填のため、「ロドネー」の主砲がしばし沈黙し、コロラド級から放たれた40センチ砲弾が「ロドネー」に向かって飛来する。


 弾着位置はこれまでよりも近くなっている。4発の砲弾は「ロドネー」の左舷側にまとまって着弾し、白い海水の壁を現出させた。


 斉射を報せるブザーが鳴り響き、それが鳴り終わった直後、「ロドネー」はこの日最初となる斉射を放った。


 主砲斉射時に発せられる閃光は凄まじく、ルネには北欧神話の主神オーディンが操る雷鳴が間近に落ちたのではないかとすら感じられた。


 「ロドネー」に続いて、周囲からも断続的に発射炎が確認された。


 発射炎の大きさ的に重巡――恐らく「ロンドン」「サセックス」辺りが目標に対し命中弾を得て、斉射に移行したのだろう。


「ドーントレス急降下!」


 突然の報告にルネは艦橋の窓から上空を見上げた。砲戦開始直前に戦闘海域に来たドーントレスの内一部がコロラド級を援護するために、「ロドネー」に急降下爆撃を仕掛けてきたのだ。


 「ロドネー」の左右両舷から小太鼓を連打するような小気味よい音が聞こえてきた。


 「ロドネー」に装備されている対空火器の内、2ポンド8連装ポンポン砲4基が射撃を開始したのだ。このポンポン砲という火器は濃密な弾幕を張ることが出来る火器であり、ドーントレスの1番機が被弾し、投弾コースから消えていった。


 「ロドネー」が撃退できたのは1機だけであり、他のドーントレスは高度900メートル付近で引き起こしをかけ、投弾していった。


 コロラド級から放たれる巨弾の飛翔音に、高空から落下してくる1000ポンド爆弾の落下音が重なり、数秒後、「ロドネー」の艦上に衝撃が走った。


「艦首に1発被弾! 損傷軽微!」


「6番高角砲損傷!」


 被害報告が入り、ルネは安堵した。ドーントレスから投下された1000ポンド爆弾では、「ロドネー」の分厚い装甲を破ることは不可能であり、戦闘や航行に影響することはないからである。


 このタイミングで「ロドネー」の第1斉射弾が敵4番艦を捉えた。着弾の瞬間、ルネは轟沈を期待したが、命中した40センチ砲弾はコロラド級の主要防御区画に張り巡らされた装甲に跳ね返されてしまったようであり、爆炎が湧くことすらなかった。


「『ネルソン』斉射に移行しました!」


との報告が届き、「ロドネー」の周囲に水柱が奔騰した。命中こそしなかったが、着弾はかなり近くなっており、あと1、2回の弾着修正で「ロドネー」に命中弾が発生しそうであった。


 被弾する前にコロラド級を叩き潰すべく「ロドネー」の40センチ主砲3基9門が第2斉射を放った。


 「ロドネー」の第2斉射弾は2発がコロラド級に命中した。1発は第1斉射弾同様、主要防御区画に張り巡らされた装甲に弾き返されたが、もう1発は非装甲に命中し、艦内で炸裂した。


 コロラド級の艦内から濛々たる黒煙が噴出し始め、コロラド級が新たな砲弾を放った瞬間、その黒煙が吹き飛ばされた。


 コロラド級が放った砲弾が着弾する直前、「ロドネー」は第3斉射弾を放った。


 「ロドネー」の左右それぞれに水柱が奔騰し、水中爆発の衝撃が「ロドネー」の艦底部を突き上げた。


「本艦挟叉されました!」


 見張り員が報告してきたが、ルネは一言も発しなかった。ここまできたらどっちが先に限界を迎えるかという話だけであり、艦長としては各員の奮戦を期待するのみであった。


 コロラド級の火災が再び拡大する。第3斉射弾9発の内、2、3発が命中し、コロラド級に更なる打撃を与えることに成功したのだ。ひょっとしたら主砲塔の1基ぐらいは破壊できたかもしれなかった。


 コロラド級が斉射に移行する。


「おや・・・!?」


 その瞬間、ルネは違和感を感じ、その違和感の正体は測的長からの報告によって判明した。


「測的より艦長。発見せらる発射炎は4!」


「よし!」


 ルネは拳を天に突き上げ、次いで、艦内放送用のマイクを握りしめた。


「本艦の40センチ砲弾は、敵4番艦の主砲2基を破壊した! 勝機は我にあり!」


 直後、艦内各所から歓声が沸き上がり、「ロドネー」は第4斉射弾を放った。


 コロラド級から放たれた4発の斉射弾は1発が「ロドネー」に命中した。


 被弾の瞬間、大地震にも劣らないような衝撃が「ロドネー」を襲い、「ロドネー」の水上機を発射させるカタパルトは見事なまでに木っ端微塵に撃ち砕かれていた。


 「ロドネー」の第4斉射弾がコロラド級に襲いかかり、勝負は決した。


 コロラド級は完全に航行を停止しており、最後まで砲撃を継続していた2基4門の40センチ主砲に新たな発射炎が閃くことはなかった。


「敵4番艦撃沈確実!」


 ジョージ・マクエロイ砲術長の喜色混じりの声が伝声管越しに聞こえてきた。


 「ロドネー」は1対1の勝負で、コロラド級戦艦に打ち勝ったのだ。イギリス製40センチ砲搭載艦の優秀性が証明された瞬間であった。


 だがこの時、5番艦の「ウォースパイト」、6番艦の「バーラム」は苦戦を強いられていたのだった・・・








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