第13話 イギリス艦隊急襲③

1941年11月20日


 敵巡洋艦部隊が、「プリンス・オブ・ウェールズ」「フッド」とS・3部隊の軽巡4隻との砲戦に拘束されている隙を衝いて、イギリス海軍が誇るJ級駆逐艦、K級駆逐艦が敵空母の下腹に魚雷を撃ち込むべく突撃を開始していた。


「主砲、砲戦準備!」


 S・4部隊(J級駆逐艦で構成されている)司令駆逐艦「ジャッカル」の艦橋で、ウィリアム・ビショップ艦長は砲術長に下令した。


「アイアイサー! 主砲、砲戦準備!」


 砲術長から即座に復唱が返され、「ジャッカル」の頭上からエンジン音が聞こえてきた。


 戦艦、巡戦から発進した水上機の内1機が、「ジャッカル」を始めとするS・4部隊を援護しようと駆けつけてくれたのだ。


 S・4部隊を始めとする駆逐艦部隊の進撃を押しとどめるべく、敵駆逐艦が次々に変針し、こっちに向かってきた。


「砲術長。目標の選定は任せる」


「敵2番艦を狙います。角度的に狙い易いので」


 ビショップの指示に砲術長が回答したとき、敵駆逐艦の艦上に次々に発射炎が閃いた。ビショップは(まだ、距離が離れすぎだ)と心の中で呟いたが、敵駆逐艦の艦長達はそれほど焦っているのかもしれなかった。


 約1分後、「ジャッカル」の艦上に発射炎が閃き、轟音が艦全体を包み込んだ。


「『ジャーヴィス』『ジャガー』砲撃開始しました! 『ジュノー』続きます!」


 艦橋見張り員から報告が上がり、その声に敵弾の飛翔音が重なる。


 直径5インチと思われる砲弾が次々に水柱を奔騰させ、「ジャッカル」の艦体が左右に激しく揺さぶられる。


 「ジャッカル」が第2射を放ち、敵駆逐艦も次々に砲弾を撃ち込んでくる。


「『ジャガー』被弾! 火災発生!」


「S・5部隊の駆逐艦にも被弾艦が出てます!」


「くっ・・・!!!」


 僚艦の被弾報告を聞いたビショップは唇を噛みしめた。敵駆逐艦が遠距離砲撃を開始した時は当たるはずがないと思っていたが、乗員の技量がビショップの予想を凌駕していたのかもしれなかった。


 だが、数秒遅れて「ジャッカル」が放った砲弾が着弾した時、ビショップの心の中を侵食しつつあったマイナスの感情は全て吹き飛ばされた。


 黒い塊が敵2番艦の艦上に吸い込まれた直後、敵2番艦が何重にもぶれたように見え、細長い構造物が何本も海面に落下したのだ。


「グッド!」


「次より斉射に移行します!」


 ビショップは拳を握りしめ、砲術長が斉射への移行を報告してきた。


 敵2番艦は砲撃を継続していたが、それを押しつぶすかのようにして「ジャッカル」はこの日最初となる斉射を放った。


 6門の12センチ主砲が一斉に咆哮し、交互撃ち方のそれに倍する衝撃が「ジャッカル」の艦体を駆け抜けた。


 第1斉射が着弾する前に、「ジャッカル」は第2斉射、第3斉射を放っている。


 ここにきて、敵2番艦の砲弾が1発「ジャッカル」に命中したが、致命傷にはならず、敵2番艦の艦上に次々に閃光が閃いた。


 主砲塔に命中した12センチ砲弾は、その砲塔を旋回不能に陥れ、煙突に命中した12センチ砲弾はその煙突を根元から引きちぎった。


 艦橋にも1発が命中し、艦橋の上半分がきれいさっぱり消滅する。


 敵2番艦は急速に戦闘力を喪失しつつあり、右舷側に傾き始めた。


「敵2番艦撃沈確実!」


「砲撃目標を敵1番艦に変更!」


 砲術長から報告が上げられ、ビショップは射撃目標の変更を命じた。


 敵駆逐艦を無力化したのは「ジャッカル」だけではない。2番艦の「ジャーヴィス」も敵3番艦の後部に集中して12センチ砲弾を命中させており、敵3番艦の舵を破壊し、戦闘離脱へと追い込んでいた。


 「ジャッカル」が敵1番艦へ交互撃ち方を開始し、同じく敵1番艦に狙いを定めた「ジャーヴィス」も砲撃を開始する。


 敵1番艦から放たれた砲弾の内、2発が立て続けに「ジャッカル」を捉えた。1発は機銃群の直中に飛び込み火災を発生させただけに留まったが、第3主砲に命中した1発は主砲塔の前半分を抉り取った。


「第3主砲損傷!」


 砲術長から報告が上がってきたが、ビショップは動じておらず、敵1番艦の姿を凝視していた。


 敵1番艦に対して命中弾を得たのは、「ジャーヴィス」の方が早かった。


 敵1番艦の艦首付近に爆炎が躍り、敵1番艦の速力が僅かに減速する。


「『ジャーヴィス』に負けるな! 撃ちまくれ!」


 ビショップが発破をかけ、それに答えるかのように「ジャッカル」から放たれた12センチ砲弾も敵1番艦に命中した。


 「ジャーヴィス」が斉射に移行し、「ジャッカル」も斉射に移行する。


 多数の12センチ砲弾が敵1番艦に降り注ぐ。多数の命中弾が発生し、敵1番艦の艦上に存在している艦上構造物が1つ、また1つ屑鉄へと変わっていく。


「敵1番艦離脱します!」


 見張り員から報告が上げられた。敵1番艦が面舵を切り、戦場からの離脱を図ろうとしているのが、艦橋からも確認できた。


 S・4部隊が敵駆逐艦を撃退した頃、他のS・5部隊、S・6部隊、S・7部隊も敵駆逐艦の撃退に成功していた。


 「プリンス・オブ・ウェールズ」「フッド」、S・3部隊も敵巡洋艦群に撃ち勝っており、敵巡洋艦は3隻が撃沈確実となっていた。


「敵空母との距離12000メートル!」


 見張り員からの報告が上げられた。


 敵の護衛の巡洋艦、駆逐艦をあらかた撃沈・撃破し、目的の米空母まであと一歩だった。
























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