第12話 イギリス艦隊急襲②
1941年11月20日
「プリンス・オブ・ウェールズ」に砲門を向けられたのは、ノーザプトン級重巡の「ルイビル」だった。
「『レキシントン』面舵! 『ワスプ』面舵!」
「それでいい」
「レキシントン」「ワスプ」の2空母が退避を開始したとの報告に、「ルイビル」艦長E・J・マーカート大佐は静かに頷いた。
「『セーラム』より通信。敵は戦1、巡戦1、巡4。戦艦は『キングジョージ5世級』と予想される」
通信室から報告が上がり、その報告をかき消すかのように、「ルイビル」の20センチ3連装主砲3基9門が一斉に咆哮した。
通常、砲戦は最初交互撃ち方から始めるものだが、今回は重巡VS戦艦という特殊な構図のため、マーカートは第1射目から斉射を用いるように命じていた。
9門の主砲が、右舷側に火焔をほとばしらせ、その反動が全長182.90メートル、全幅20.1メートル、基準排水量9050トンの巨体を震わせる。
「ルイビル」は既に竣工から10年が経過している艦であり、艦内各所に老朽化が目立ち始めていたが、敵戦艦と撃ち合わんとしているその勇姿は、まだこの「ルイビル」が合衆国巡洋艦部隊の主力であるということをマーカートに改めて認識させた。
敵戦艦から放たれた巨弾が轟音と共に飛翔し、着弾した。
「ルイビル」の被害はなかった。一番近い着弾でも「ルイビル」から200メートル以上離れており、水中爆発の衝撃が艦底部を痛めつけることもなかった。
「ルイビル」はお返しと言わんばかりに第2射を放ち、その20秒後に第3射を放った。
「第1射、近2、遠7!」
砲術長フレッド・グライア中佐の声が伝声管越しに聞こえてきた。
敵戦艦が第2射を放ち、それが着弾したのは「ルイビル」が第5射を放った直後だった。
1本の水柱が「ルイビル」の進撃方向に奔騰し、艦がその水柱に突っ込んだ。
艦首が水柱を突き崩し、今度は艦底部からも衝撃が伝わってきた。
「機関室、大丈夫か!?」
「機関全力発揮中! ご安心ください!」
マーカートが機関の状態を案じたが、機関長ジョージ・クラーク少佐から即座に返信が返ってきた。クラークを始めとする機関室チームは敵戦艦と撃ち合っているこの状況下でも最高の仕事をしているようであった。
「命中!」
グライアの歓喜の声が伝声管から聞こえ、敵戦艦の中央部に火災炎が湧き上がった。
砲弾は敵戦艦の主要装甲部に命中したようであり、ダメージは与えられてなさそうであったが、ともかく「ルイビル」はキングジョージ5世級戦艦に対し、先手を取ることに成功したのだ。
更なる直撃弾を得るべく、「ルイビル」の主砲が吠え猛る。
直撃弾を得た後の斉射もそれまでの砲撃と変わらなかったが、マーカートには「ルイビル」が歓喜の歌声を歌っているかのように感じられた。
マーカートは全神経を敵戦艦に集中させ、着弾の瞬間を待った。
着弾の瞬間、まず敵戦艦の艦首付近に爆発が確認され、艦中央部、艦後部にも爆発が確認できた。
「ルイビル」は一時に3発の20センチ砲弾を命中させたのだ。
「いいぞ! ドンドン行け砲術長!」
マーカートはグライアに激励を送った。
「ルイビル」が放つ20センチ砲弾と入れ替わるようにして敵戦艦の砲弾も飛んでくるが、命中弾はない。何発か際どい所に着弾したものもあったが、直撃弾を受けることなく「ルイビル」は敵戦艦との砲撃を継続している。
「ルイビル」から放たれた20センチ砲弾は次々に命中し、3斉射後には10発を数えた。
「そろそろ効いてきたかな?」
「ルイビル」が砲戦を優位に進めていると確信し、ひょっとしたら「ルイビル」が敵戦艦を撃退できるのではないかと思い始めていたが、「ルイビル」に破局が訪れたのは次の瞬間だった。
これまでとは違う飛翔音が聞こえてきた――マーカートがそう直感した直後、艦体が大きく揺さぶられ、何かが壊れる破壊音と、何かが倒れた衝撃音が艦橋にまで聞こえてきた。
「第1主砲大破!」
「クレーン倒壊!」
損害状況が報告されたが、被弾時に体を壁に打ち付けたマーカートは新たな命令を発する事が出来なかった。
先程まで盛んに20センチ砲弾を叩き出していた3基9門の主砲は完全に沈黙しており、その速力も25ノット前後にまで低下していた。
「敵戦艦斉射!」
見張り員の絶叫のような叫び声が聞こえ、頭の意識がはっきりとしてきたマーカートは破局を悟り、そして後悔した。
「敵戦艦とはまともに勝負せず、転舵の連続で砲弾を回避する事に注力していればよかったのだ」と。
マーカートに変わって副長が「ルイビル」の指揮を継承し、「総員退艦」の命令が発せられようとしていたが、それすらも手遅れだった。
第2主砲の天蓋上からほぼ垂直に近い角度で命中した砲弾が、弾火薬庫内で炸裂し、凄まじい破壊エネルギーが「ルイビル」の艦上を駆け巡った。
「ルイビル」の艦首3分の1は即座に消滅し、艦全体が急速に海面下に沈みつつあった。
やがて残った艦体そのものが横転し、マーカートの意識も永遠の闇へと消えていったのだった。
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